フィギュア団体戦に存在意義はあるのか!?=国別対抗戦で見えた問題点と可能性

野口美恵

フィギュア振興を目的とした団体戦の五輪採用

 国別対抗戦の会見で、オッタビオ・チンクワンタISU会長は「国別対抗戦は大成功に終わった。テレビの視聴率も良いと聞いている」と、イベント性に豊かに運営された大会を喜んだ。
 しかし実際には、今回の国別対抗戦の重要な役割は、ソチ五輪で正式種目となった「団体戦」の試験大会だ。大会の運営も、選手の負担も、各国の作戦も、すべてが手探りの状態にあり、今大会でその展望をつかむことが期待されていた。

 五輪団体戦について、現在決まっているのは下記のとおり。
<1> 男子シングル、女子シングル、ペア、アイスダンスのうち少なくとも3種目の選手が参加する
<2> 参加選手は、個人競技で五輪出場権のある選手。ただし五輪出場選手がいない種目1つに限り、自国選手の出場が可能
<3> 2人(組)までは、SP(SD)とFS(FD)で選手を交代させて良い
<4> 2012−13シーズンの成績により上位10カ国が参加
<5> 五輪開会式の前日から3日間で行う
<6> SP、SDを滑った結果、上位5カ国がフリーに進出

 団体戦の元となったのは、09年4月に東京で行われた国別対抗戦。スピードスケート出身の会長は「スピードにもショートトラックにも団体戦がある」として、五輪での正式種目採用を目指し、11年7月の国際オリンピック委員会総会にて採用された。

 チンクワンタ会長は「ISUはアジアという大きな地域で、フィギュアスケートを広げたい。国別対抗戦や五輪団体戦ができたことで、中国は(4種目の)大きなチームとなる時代が必ず来るし、日本もアイスダンスとペアを強化するだろう」と話し、政策的なフィギュアスケート振興を目的としていることを話した。

フィギュアでも立ちはだかる国籍問題

高橋成美/マーヴィン・トラン組にはトランの国籍問題が立ちはだかる 【坂本清】

 では、日本の現状はどうか。12年世界選手権で日本人初のペア銅メダルを獲得した、高橋成美/マーヴィン・トラン組は、国別対抗戦には出場できた。しかし、トランはカナダ国籍のため、五輪には日本代表として出場できない。そのため自民党のスポーツ立国調査会では、超党派のスポーツ議員連盟に働きかけ、特例での国籍取得を目指すことが4月26日に早くも決定。JOCも政府に要望書を出したいとし、動き出している。
 一方のトランは「アスリートとして最高の大会である五輪には出たい。でも今まで毎日練習して頑張ってきただけなのに、急に国籍ばかり問題になり驚いている。チームとして貢献できる役割があることが分かった」と言う。

 アイスダンスは、唯一の国際レベルの選手としてリード姉弟が健闘している。父が米国人、母が日本人で、2人とも20歳の時に日本国籍を選んだ。バンクーバー五輪では17位。日本の団体戦メダルに向けて、リード姉弟のさらなる成長が期待される。

 ISUの理事である平松純子氏は、「ISUは4種目バランス良く育成することを、良い強化方針と考えています。しかし日本は、ペアやアイスダンスのようにリンクを貸し切って練習する必要がある種目は、スケート場不足のために強化が難しいのが現状」と吐露する。

 複雑なルール、団体戦という種目に追いつけない各国事情。初回となるソチ五輪では、種目間のレベル差が目立ち、メダルの価値評価も難しいかも知れない。しかし、長い目で見れば、4種目の育成はフィギュアスケート全体の振興につながる。特に選手層が薄くなりつつあるペアにとっては、種目存続への足がかりにも成りえるだろう。2年後のソチ五輪だけではなく、これから何十年も先のフィギュアスケートを想像すると、団体戦の面白さは増しそうだ。

<了>

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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