ザック監督がこだわる3−4−3に疑問=追及か封印か、割り切りも必要なのでは

元川悦子

新戦力の見極め以上に重視

練習試合では清武(左)、原口の五輪コンビもゴール。しかしザッケローニ監督(奥)の理想像と選手の現状にはかい離も 【写真は共同】

 2014年ブラジルワールドカップ(W杯)・アジア3次予選最終戦のウズベキスタン戦の敗戦から2カ月。キャプテン長谷部誠ら主力選手から、「このまま6月の最終予選3連戦を迎えるのは不安」という声が高まったこともあり、急きょ4月の強化合宿と5月23日のアゼルバイジャン戦が設けられることになった。日頃から「準備時間が不足している」と口癖のように漏らしているアルベルト・ザッケローニ監督にとっても、4〜5月の活動はチームの底上げと新戦力発掘の貴重な機会となる。

 そんな中、4月23〜25日に千葉県内で行われた日本代表候補合宿は国内組のみのメンバー構成となった。指揮官は清武弘嗣、原口元気、酒井宏樹、大迫勇也、権田修一のロンドン五輪世代5人と、Jリーグで目覚ましい成長を遂げている高橋秀人、山田大記の新顔2人を招集し、彼らにチャンスを与えた。

 ザック監督は3次予選開始直前だった昨年8月にも、札幌で国内組だけの合宿を実施しており、そこで頭角を表した清武、ハーフナー・マイクらが3次予選の重要な戦力になっていった。おそらく今回も同じような成果を期待していたのだろう。

 ところが、合宿が始まってみると、新戦力の見極め以上に重視されたのが、3−4−3の習熟だった。ザック監督は初日から選手たちをピッチに立たせ、3−4−3の基本コンセプトを事細かに説明。2日目はディフェンスをつけてサイドで数的優位を作りながら攻める練習を行うなど、より実戦的な内容へとレベルを上げていった。逆サイドにボールがある時、もう一方のサイドハーフ(SH)が絞って4バックになるといった守備の約束事を刷り込むため、全体練習後には今野泰幸、槙野智章らDF陣10人を集めて30分近い居残り練習を行うほどの気合の入れようだった。

柏木「どうすればいいのか分からない……」

 最終日は、関東大学リーグ1部の強豪・明治大学との練習試合(45分×2本)に挑んだ。1本目はDF(右から)に徳永悠平、岩政大樹、伊野波雅彦、右SHに森脇良太、左SHに太田宏介、ボランチは柏木陽介、中村憲剛、右FW藤本淳吾、左FW山田大記、トップに大迫という顔ぶれで、GKは30分ずつで交代する形をとった。

 選手たちは2日間練習した約束事を頭に入れながらプレー。守備面では5バック気味にならないようにする意識も強くうかがわせた。にもかかわらず、手薄になった中盤で起点を作られたり、ゴール前に飛び込まれて失点するなど、どうもスムーズにいかない部分が多い。攻撃面でも、3−4−3の一番の長所であるサイドでの数的優位をなかなか作れず、森脇と太田の両SHが追い越していく形も少なかった。2−1で勝ちはしたが、「みんなが練習でやってきたことをやろうとしすぎて距離感が遠かった。サイドで逆に数的不利になったりして、全体にあまりうまくいかなかった」と柏木陽介も不完全燃焼感を口にしていた。

 2本目はDF(右から)今野、岩政、槙野、右SH酒井、左SH駒野友一、ボランチ高橋、遠藤、右FW清武、左FW原口、トップに前田遼一が入った。ザックジャパン常連組が多く、お互いの特徴を理解していたこともあって、1本目よりボールは回った。清武が早めに中に絞って外側から酒井を上がらせ、そこに遠藤がパスを出すなど、リズムのいい攻撃も繰り返し見られた。サイドで数的優位を作る攻撃が数多く出て、清武と原口のU−23代表コンビもゴールし、合計3点が入ったことで、3−4−3の理解度も少し深まったように思われた。

 しかしながら、ザック監督はいら立ちを隠せず、清武と原口を呼んで「中に入りすぎる」と注意を促した。この様子を見ていた同じサイドアタッカーの藤本は「監督からはウイングが外に開いてから動き出して中に入ってくる形を言われている。でも、僕らが中に入らないと、ボランチとの距離が開いて孤立しちゃう」とジレンマを口にしていた。柏木も「元気とキヨ(清武)が中に入って行くのはいい形だと思いながら見ていたけど、監督は納得がいっていなかった。どうすればいいのかちょっと分からない……」と指揮官の意図をつかみきれていない様子だった。実際に指導を受けた清武は「監督の求めていることができなかった」と反省しきりで、ザック監督の理想と選手たちの現状との乖離(かいり)の大きさが、あらためて浮き彫りになった。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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