生命線を欠いたバルセロナ=明暗を分けたエル・クラシコ

清水英斗

低調に終わったクラシコ

今季6回目のクラシコはレアル・マドリーが勝利し、4季ぶりのリーガ優勝が目前に 【Getty Images】

 リーガエスパニョーラ第35節、今シーズン6回目の“エル・クラシコ”(伝統の一戦)は、首位レアル・マドリーが2−1で、2位バルセロナを下した。順位こそ首位のレアル・マドリーだったが、今シーズン5回行われたクラシコの戦績は2分け3敗。バルセロナに対してかなり分が悪かったが、コンプレックスを振り払い、勝ち点差を7に広げた。残り試合数が4であることを考えれば、4季ぶりのリーガ優勝は目前だ。試合後のレアル・マドリーの選手たちのスッキリとした笑顔が印象的だった。勝ち点の上でも、自信を深めるという意味でも、レアル・マドリーにとっては非常に大きな1勝になったはずだ。

 とはいえ、試合内容を見ると、低調なクラシコだったことは否めなかった。

 勝利したレアル・マドリーの良さというよりも、バルセロナのコンディションの悪さが目立つ。両チーム共、1週間の中でチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第1戦と第2戦を含む重要な試合を3つもこなさなければならない過密スケジュール。しかも、バルセロナはCL準決勝第1戦とクラシコ、クラシコとCL準決勝第2戦の間にそれぞれ中2日しかなく、中3日を与えられたレアル・マドリーに比べるといっそう厳しい状況だ。バルセロナにとっては2011−12シーズンで最も過酷な1週間と言えるだろう。

 ここでバルセロナサッカーの2つの特徴を振り返っておきたい。

1.70パーセントのボールポゼッションを握る
2.ボールを奪われたら素早いプレッシングスピードで奪い返す

 数的優位を作りながら、ゆったりとした省エネ攻撃でボールをキープ。相手チームにボールを奪われたら、フルパワーのプレッシングで数秒以内に奪い返し、再びボールをキープする。延々とバルセロナの攻撃フェーズが続くような無言のプレッシャーが、真綿で首を絞めるようにじわじわと、相手チームを焦らせ、疲れさせる。そしてフッと相手の気が緩んだすきを見逃さずにゴールを挙げる。

 省エネ攻撃とフルパワー守備によるゲームの完全支配。これが現時点のバルセロナサッカーの最大の特徴であると筆者はとらえている。

 逆に言えば、この2つの特徴のどちらかをつぶせば、バルセロナのパフォーマンスは大きく下がる。今回のクラシコでは、1つ目のポイントであるボールポゼッション率は達成できていたが(バルセロナ72パーセント:レアル・マドリー28パーセント)、しかし2つ目のポイント、プレッシングスピードについては前述した過密スケジュールの影響か、攻守の切り替え時の寄せの鋭さは全く感じられなかった。典型的なシーンは後半28分のレアル・マドリーの2点目、テジョのパスミスからボールを奪われた後の対応である。アルバロ・アルベロア、アンヘル・ディ・マリアにあっさりとボールを運ばれ、右サイドで待つフリーのメスト・エジルにパスを通させてしまった。バルセロナらしくない、あまりに緩慢なプレッシングと言わざるを得ない。

 本来のバルセロナはフィジカル能力の高いチームである。『フィジカル』という言葉自体が非常にあいまいな言い方だが、ここで意味しているのは球際の当たりが強いとか、直線スピードが速いといった意味ではない。爆発的なショートスプリントを数多く繰り返し、持続させるためのフィジカル。それがバルセロナサッカーの生命線なのだが、今回のクラシコには欠けていた。

 細かい戦術について言及する前に、この試合については、コンディション差を無視することはできないだろう。

変ぼうしつつある2年目のモリーニョ

 レアルのシステムについて、試合前にはジョゼ・モリーニョ監督が中盤の底にアンカーを置くのか否かが注目されたが、ふたを開けてみれば、いつも通りの4−2−3−1。今シーズンに6回行われたクラシコのうち、モリーニョがアンカーを置いたのは国王杯準々決勝の第1戦のみ。それ以外はチームの基本システムである4−2−3−1を採用している。

 バルセロナはセンターフォワードのリオネル・メッシが中盤に下り、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタらとともに中盤に数的優位を生み出して起点を作る。その動きを捕まえるために、レアル・マドリーのセンターバックがメッシを追いかけて飛び出すと、バルセロナの両ウイングに中央へカットインされやすくなってしまう。そこで、ディフェンスラインを4枚に保ったままで中盤の守備を増やすために、トップ下のエジルやFWカリム・ベンゼマを削り、アンカーにペペを置く。この対策が昨シーズンは多く採用されていた。

 ただし、このアンカーシステムは守備が安定するのだが、欠点も多い。

1.前線が3枚ではほとんどカウンターが成功しない
2.ペペが攻撃の基点になれない
3.守備機会が多すぎるため、退場者を出す危険が大きい

 実際、国王杯準々決勝第1戦で採用したとき、レアル・マドリーのシュート数はゴールを挙げたクリスティアーノ・ロナウドのカウンターからのシザーズシュートを含むわずか2本。前線が3枚ではほとんどカウンターが成功しない。アンカーに入るペペの場所がフリーになりやすいので、ペペが前を向いてボールを持つシーンも多かったが、もともと守備の選手なのでドリブルもパスも質が高くなく、攻撃が構築できない。そのような攻撃面のイライラもたまっていたのか、ペペはメッシにストレスをぶつけてしまい退場処分。また、チェルシーやインテルならいざ知らず、レアル・マドリーの選手からは「守備的すぎる」と不満が出ており、守備に徹するチームを作るのに不向きだ。アンカーシステムにはすでに限界が見えていた。

 一方、トップ下を置いた場合は、中盤の底のスペースが空きやすくなるが、シャビ・アロンソとサミ・ケディラはそれを十分に意識し、横パスに対して素早くスライドしながらゴールにつながるスペースを埋める。そしてバルセロナの攻撃をディレイさせているところへ、エジルやベンゼマがプレスバックして戻ってくる。この手順がきちんと整理されているので、枚数は少なくても守備に安定感があり、また、攻撃の選手を4枚置いているので、アンカーシステムに比べると、はるかにカウンターの構築力が上がる。

 このように基本スタイルは守備固めからのカウンターではあるが、2年目のモリーニョはもう少しバランスを攻撃的にシフトしている。そのポイントとなるのは中央の4人、ベンゼマ、エジル、シャビ・アロンソ、ケディラの献身的な活動量にあると言えるだろう。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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