プロ選手育成へ、プレミアリーグが果たす役割=京都サンガU−18・本田将也監督インタビュー

元川悦子

高体連の力が落ちているという実感は全くない

昨年ブレークした久保(写真)をはじめ、京都はユースから多くの選手がトップチームに昇格している 【Getty Images】

――そんな高体連のチームですが、プレミアリーグでは苦戦を強いられています。昨年は東西ともにJユースが上位を占め、高校勢は下位に回る構図となりました。本田監督は両者の実力差をどう受け止めましたか?

 僕は高体連が低いとか、Jユースが高いとか、そういう観点では全く見ていません。確かにJクラブに能力の高い選手が集まりやすいというのはあるでしょうけど、昨年プレミアを1年間やってきて、そんなに簡単に勝ち点を取ることはできなかった。特に後期に入ってからは引き分けが多かったですしね。毎試合毎試合が常に厳しかった。高体連の力が落ちているという実感は全くないです。

――高校の監督の中には「このままだとプレミアから高校がいなくなる。お互いに切磋琢磨(せっさたくま)させるために『Jユース枠』と『高校枠』を導入したらいいのでは?」という意見を出されている方もいます

 確かに一時期、どちらかが多くなることはあるかもしれませんけど、それがずっと続くとは僕は思いません。僕の知っている先生方は皆さんすごくいろいろなアイデアをお持ちで、自分のところで何とか選手を最大限伸ばそうと工夫を凝らしている。だから、2種のエリート育成がJクラブだけになってしまうようなことは決してないと思いますよ。

――ただ、同じリーグを戦っていても、Jユースと高校勢の経済環境の違いはありますよね。高校勢は数百万円の遠征費を自己負担しているところもあると聞きます

 お金のことは重要なテーマだし、解決していくべき問題ですね。ただ、プレミアもまだ1年が経過したところ。すべてがパーフェクトというわけにはいかない。いろんなことを積み重ねながらいいリーグにしていけばいいと思います。

 実際、今の僕らはものすごく恵まれた環境にいる。最高のピッチ、最高の道具、最高のウエアを使って、サッカーにも学業にも専念できるわけですからね。監督の自分自身でさえ、それが当たり前のように感じてしまう時がある。だからこそ、選手たちには要求し続けていく必要があると痛感します。「プロになれへんのはなんでや?」「うまくできひんのはなんでや?」って常に問いかけてるのも、言い訳する選手だけは絶対に作りたくないという強い思いからなんです。

プレミアは年間リーグという意味で最重要視している

――週1回ペースで日本の半分を遠征するプレミアリーグは、恵まれた環境にいるJユースの選手たちにたくましさと忍耐力を身に付けさせるいい機会かもしれないですね

 今のカレンダーは4月にプレミアが始まり、5〜6月にクラブユースの予選、7月に再びプレミア、8月にはクラブユース本戦を戦って、8月下旬からはプレミアとJユースの予選に並行して挑む形ですよね。そして10〜11月にJユースの決勝トーナメントがあって、12月にプレミアの終盤戦を消化することになっています。それ以外にも国体とかミニ国体もありますし、トレセン活動や代表の活動も入ってくる。学校のテスト週間も入ってきたりするので、4〜12月は毎週試合をしている感覚です。

 そんなハードな日程ですから、頭のチップを毎回切り替えないといけない。僕は「自分たちでコントロールできないことはどうしようもない。それを気にせずやれ」と選手たちに話していますし、日程のことは言い出したらキリがない。そこで集中できるかどうか。それが大事になってきますよね。

 ただ、1つだけ注意したいのは、夏場の試合運営です。気温が高く、あまりにも過酷すぎるので、キックオフの時間を考慮した方がいい。ナイターにすると後泊しなければならなくなって予算的にきついとかいろいろ問題はあるんでしょうが、現状では選手たちの負担はかなり大きいと思います。

――年末のチャンピオンシップやプレミア参入戦が「一発勝負」になっているのも、気になる部分ではありますが……

 チャンピオンシップ自体、年末のギリギリの時期にやるんで、一発勝負でないと厳しいんですよね。その後すぐにJユースの準決勝、決勝がありますし、高体連も選手権がある。高体連にとって選手権はやっぱり一番の華ですし、プレミアとどうバランスを取っていくかという問題もありますよね。そんな状況ですから、東西4チームずつが参加してトーナメント戦をやろうとしても、試合を入れる日がない。そのくらい日程がカツカツなんです。だけど、この方式が5年後も10年後も同じとは限らないし、話し合いでどんどん変えていけばいいと僕は思っています。

――今の京都にとって、プレミアリーグは最大のトーナメントという位置づけですか?

 クラブユース、プレミア、Jユースが3冠なので、現状では並列です。ただ、プレミアは年間リーグという意味で最重要視しています。昨年は2位だったんで、今年はもちろん優勝を狙ってますよ。今年のチームには昨年のプレミアを経験した山田元気、斎藤隆成、田村亮介もいますし、新1年生の奥川雅也らトップを狙える選手も入ってきました。3年生も全員頑張っていますし、チームを引っ張ってくれると期待しています。僕も「今までの偉大な先輩たちを追い越そう。新たな歴史を作ろう」と日ごろから選手たちを鼓舞しています。彼らにはクラブに何らかの財産を残してほしいですね。

――そういう将来のあるタレントを育てるためにも、もう少しお客さんのいる中で試合をさせてあげたいところですが

「プレミアの認知度を高めるべき」という議論は、先日の日本サッカー協会での会議でも話題に上りました。われわれはJクラブですし、Jリーグの前座、後座でやるのは1つのアイデアですよね。現場としてはもっと多くの人に見てもらえるような選手を育て、チームを作らないといけない。幸いにしてウチのアカデミーは注目されているし、京都の人たちにも応援してもらっています。だからこそ、選手には期待に応えられる人間になってほしい。そう強く要求し続けるつもりです。


 トッププロを輩出することを目的とするJクラブにとって、1年間の全国リーグ戦はプラス要素が多いようだ。この大会を通して、環境的に恵まれた選手にたくましさや闘争心を身に付けさせられれば御の字だろう。そのためにも、高校選手権のようにプレミアリーグへの関心を高め、観客動員力のある大会に育てることが今後の重要テーマといえそうだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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