米国戦“初勝利”の背景にあるもの=日本女子代表 1−0 米国女子代表

江橋よしのり

ゴール前での迫力があまり感じられなかった米国

 ここで、米国サイドから試合を振り返ってみたい。ポゼッションスタイルを途中から改めた米国は、ワンバックの頭を狙ったロングボール攻撃に活路を見いだそうとする。ワンバックがコースを変えて、モーガンが走り込む。高さとスピード。この単純な攻めは、なでしこを脅かした。前半26分には、最終ラインからの1本の縦パスでモーガンが抜け出し、決定的な場面を作る。しかしモーガンのシュートはポストを直撃した。

 後半も米国は、単発的な攻撃ながら、さすがと思わせる運動能力の高さを見せた。しかし、ゴール前での迫力はW杯ほどではない。ボールにかかわろうとする選手が、明らかに少なすぎた。例えば後半36分、熊谷の背後のスペースに走り込んだルルー(後半28分にワンバックと交代)がセンタリングを折り返したシーンでは、ゴール前に走り込む選手が1人もいなかった。これがW杯や五輪本番であれば、2〜3人がペナルティーエリア内に突進してくるところだ。米国相手に失点ゼロで抑えたなでしこジャパンだったが、相手の攻撃に迫力が欠けていたことは留意すべきだろう。

 その後、高瀬にゴールを決められると、やっと米国は本気を出す。かさにかかって攻め込んだが、残り時間が短すぎた。ロスタイム3分が経過して、タイムアップの笛が鳴る。1−0。なでしこジャパンはついに、FIFA(国際サッカー連盟)ランキング1位の米国を、史上初めて90分以内で破った。

日米両国のデッドヒートはこれからも続く

「わたしたちだけじゃダメだって、澤さんに思われたくなかったですからね」
 試合後、宮間は胸をなで下しながらそう語った。しかし同時に、気持ちを引き締めることも忘れなかった。
「今日の米国はコンディションが良くなかったと思います。W杯の米国を知っているだけに、勝ったからといって手放しでは喜べません。五輪の金メダルまでは、まだ先が長いと思いますね」

 最後に、試合終了直後のピッチの様子について、ぜひとも触れておきたい。
 右半分では、米国が緊急ミーティングを行っていた。そして左半分では、なでしこジャパンがボールを蹴って練習を行っていた。いずれも出番がなかったり、出場時間が短かった選手たちだ。
 もっとうまくなるために。もっと強くなるために。

 互いにリスペクトし合える良きライバルとなった日米両国は、この日の試合を糧(かて)に、さらに成長しようとする意欲に満ちている。4週間後の4月1日、仙台で再び顔を合わせる時には、どちらがどれだけ進歩した姿を見せられるだろうか。そして8月のロンドン五輪では、どんな魅力的な戦いを演じてくれるだろうか。
 時代をリードする両国によるデッドヒートは、この先まだまだ面白くなりそうだ。

<了>

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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