ベスト4の大分、朴監督が提唱する“フリーマンサッカー”=ストロングスタイルで日本サッカー界に一石を投じるか

江藤高志

ずば抜けた個が不在のチーム

大分は朴監督の提唱する効率的でリスクの少ないフリーマンサッカーで頂点を狙う 【原田亮太】

 前述したように、大分にスキルフルなずば抜けた個はいない。平均的な能力の選手ばかりのチームである。若林は自らのチームについて「華やかというよりは泥臭いですね」と分析。そして「自分がうまいという思い込みもせず、かといって自分が下手だとネガティブに考えず。下手なりに頑張るぞという感じで。だから、みんな最後まで走れるし、球際で強いんだと思います」と話す。こうした認識が雑草魂となり、足りない才能を埋めるための走力や球際の強さを生み出している。

 フリーマンサッカーでは最終ラインからボールを簡単に前線に蹴り込むスタイルを取るが、それは全盛期の国見を彷彿(ほうふつ)とさせる。違うのは、スイーパーを置くといった過度な守備陣形を敷いていない点。そして、ポストプレーヤータイプの選手がいない部分である。また、個人技に秀でた選手がいないことはパスの精度に問題をもたらすが、それはスペースに蹴り、それを追いかける走力でカバーする。さらには、ずば抜けたタレントがいないことにより、特定の選手にマークが集中してチーム力が激減することもない。相手チームにしてみれば、押さえどころがないのである。

 朝練でのウエートトレーニングや高尾山(たかおやま)での「山ラン」を課せられる選手たちはよく鍛えられている。また朴監督が「わたしは攻めるのに神経を使わず、奪うことに興味があります。守備なんですね。奪いたいというのはあります」と話すことから分かる通り、1対1で強さを発揮する。
 走り勝ち、局面での勝負で当たり負けず、ボールを奪う。そうした基本的なスキルがまずあり、その上で守備における約束事を徹底。そうしてマイボールの時間を増やし、シンプルに攻める。非常に効率的でリスクの少ないサッカーが展開されているのである。

ストロングスタイルが投じる一石

 華やかにパスをつなぎ、ゴールを陥れるサッカーは見ていて楽しい。そして、そうしたサッカーを指向する指導者がそれを追い求める理由の1つは、例えばワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会決勝でスペインがガチガチのアンチフットボールを仕掛けてきたオランダを下したからであろう。5バックで守るアルサッドをバルセロナがチンチンにした昨年12月のクラブW杯のあの試合が、そんな指導者たちの心を強くしたに違いない。
 しかし、サッカーという競技が勝敗を決めるスポーツである以上、最後にモノを言うのは強さである。スペイン代表やバルセロナが称賛されるのは、華やかさよりも何よりも強いからだ。そしてそんな強さを、限られた人材で貪欲(どんよく)に実現しようとする大分の試みは、ここまでのところ、成功を収めている。

 元日には、W杯・南アフリカ大会で岡田武史監督(現杭州緑城監督)のもとでコーチの仕事を全うした2人の監督が、天皇杯決勝であいまみえた。FC東京の大熊清監督は、自ら指揮する最後の試合を優勝で飾った。その試合後、京都の大木武監督は「強かった」と言葉をかけ、大熊監督は「うまいとか下手とかじゃなく、強い」と言われてうれしかったと話している。

 テクニックや華やかさは、あればあるに越したことはない。ただ、そこに強さがなければ、そのチームはただの曲芸集団でしかない。そういう厳然とした事実を、朴監督は結果とともに日本サッカー界に突きつけているようにも思える。
 うまさや見栄えではなく、いろいろな意味での強さを優先。相手の速攻を封じ、ロングパスにより切り替えを早めてシンプルに攻める。そんなストロングスタイルの大分が、県勢初となる国立競技場での準決勝でどのような戦いを見せるのか。優勝という結果を大分が出すことになれば、今時はやりのパスサッカーが打倒すべき目標となるだろう。そうなれば、日本サッカー界に一石を投じることになるのだが、どうなるだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

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