延岡学園が三冠達成の快挙 悔しい歴史からなる進化とは=高校選抜バスケ

小永吉陽子

圧倒的な強さで高校三冠を成し遂げた延岡学園。強さの裏には昨年の悔しい経験をバネにした進化があった 【加藤よしお】

 連日激戦の連続だった第42回全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会(以下ウインターカップ、23日〜29日)は、延岡学園(宮崎)の三冠達成(総体、国体、ウインターカップ制覇)で幕を閉じた。
 
 昨年の王者・北陸(福井)が1回戦で弘前実(青森)に、前回大会と今夏の総体準優勝の福岡第一(福岡)が2回戦で尽誠学園(香川)に敗退する混戦模様でスタートした今大会。一見すると“番狂わせ”に見えるが、内容では決して“波乱”ではなかった。弘前実と尽誠学園の勝因を一言でいえば、あきらめなかったこと。各自がやるべきことをさぼらず、粘りで上回った勝利だった。

 ここ数年、顕著に表れていることだが、近年はウインターカップを1年の総決算としていることから、総体時は発展途上のチームが多い。事実、今夏の総体では準々決勝以降は、先手を取ったチームが一方的に試合を進めるワンサイドゲームが目立った。その大きな要因となっていたのが、ベスト4を占めた延岡学園、福岡第一、沼津中央らセネガル人留学生を擁するチームが、最終的に力でねじ伏せてしまったことだ。
 さらに準決勝では沼津中央(静岡)が、決勝では福岡第一が、延岡学園に大敗。決勝で敗れた福岡第一・井手口孝コーチが「一学年上の選手と戦っているよう」と延岡学園の完成度の高さに脱帽していたように、昨年から主力選手が変わらない延岡学園の経験値から来る総合力は頭一つ抜けていた。延岡学園と他校の差は縮まるのか――。

 これが今大会最大の見どころであり、テーマでもあった。そして強豪校たちが毎年強いチームを維持することの難しさに直面し、これまで壁を突破できずにもがいていた新鋭たちが芽を出し始めた大会でもあったのだ。夏から躍進した“進化”、“成長”、“挑戦”を紹介していこう。

3年生たちが口をそろえた「昨年の悔しい経験」

200センチの長身と身体能力の高さを生かすバンバ(写真中央)の加入で延岡学園のバスケはオールコートバスケへと展開できるようになった 【加藤よしお】

 三冠ばかりに目がいくが、延岡学園はウインターカップ初優勝。これまで夏は三度制しているが、冬はよもやの敗戦を喫することも多かった。今大会の勝因を3年生たちは「昨年の悔しい経験をバネにしてきた」と口をそろえて言う。
 昨年は今と変わらぬメンバーながら早くも仕上がりの良さを見せていたが、夏冬ともに持ち味を出し切ることなく3回戦であっけなく敗退。一昨年は留学生プイ・エリマン(現・関東学院大)と永吉佑也(現・青山学院大)のツインタワーの高さを擁して総体で準優勝したが、冬には粘りと走力を持った明成(宮城)に準々決勝で敗れている。

「これまで夏以降は学校行事や進路問題などで集中できない練習をしていたが、今年の3年生たちは真面目な選手が多く、学校行事などにも惑わされず、メリハリの効いた練習をすることができた」と北郷純一郎コーチ。しかし、選手が真面目だからといって、あれほどまでに完成度の高いチームになるものだろうか。

 大きな変化はスタイルの進化だ。オールラウンダーのジェフ・チェイカ・アハマド・バンバ(200センチ)が加入したことで、これまでの高さを生かしたハーフコートバスケから、オールコートバスケへと展開できるようになった。走れるチームは冬に強い。バンバの破壊力に加えて、ベンドラメ礼生の読みのいいスティールと得点力、キャプテン岩田大輝と寺原拓史らガード陣の豊富な運動量、リバウンダー黒木亮、スーパーサブ岡本飛龍と、各自が手を抜かない仕事人集団には“あ・うん”の呼吸があり、死角が見当たらなかった。

延岡学園の進化――失敗から学んだ教訓と意地の三冠

タレントぞろいのチームでも活躍が一際だったベンドラメ礼生。高校三冠はエースの活躍なくしてあり得ない 【加藤よしお】

 進化を見せつけたのは決勝戦。強豪校をなぎ倒して決勝まで一気に駆け上がってきた尽誠学園に対し、延岡学園は自分たちの持ち味であるディフェンスからの走りで主導権を握った。北郷コーチいわく、相手の強いところ――ガードの笠井康平とオールラウンダーの渡邊雄太を抑える「ポイントゾーン」で相手のミスを誘発した形だ。

 北郷コーチの試合運びのプランは、強豪チームの敗戦から得たヒントでもあった。福岡第一、洛南、沼津中央という強豪校が尽誠学園に敗れたのは「仕掛けるところで仕掛けない、出し惜しみがあったからではないか」と分析。言い換えれば、尽誠学園の成長を図りかねた自滅とも言える。
 もっとも自滅を引き出したのは、尽誠学園の粘りに他ならないが、同じ轍(てつ)は踏むまいと、自分たちの強みを果敢に出すスタートダッシュに加え、終盤にはオールコートプレスまでも展開。延岡学園の隙のない試合運びには、三冠を目指すチームのプライドがハッキリと見えた。88−55と33点差で挑戦者を飲み込んだのだ。

 3年間の悔しさと失敗からの学び。主力の豊富な経験と信頼。オールコートを展開する走りの進化。各自が役割を果たした自覚。そして北郷コーチが展開した王者ゆえの作戦。13年ぶりとなる3冠の快挙は、決してこの1年間だけで成し遂げたものではなく、3年生たちが3年間の悔しい歴史からなる進化でつかんだ結果だった。

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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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