「チームも個人も成長したから昇格できた」=ランコ・ポポヴィッチ(町田ゼルビア)インタビュー

宇都宮徹壱

われわれが目指すサッカーの質や志はJ1レベル

ポポヴィッチは日本で成し遂げたい目標に「チャンピオンになること」を挙げた 【宇都宮徹壱】

――今年は震災があり、開幕が1カ月以上遅れました。初戦の横河武蔵野戦は1−2で敗れましたが、その後はMIOびわこ草津とFC琉球に、それぞれ6−1、5−1と圧勝。ポポさんが目指す攻撃サッカーも、すんなりと若いチームに浸透している印象を受けました

 あなたが言う通り、選手たちへの浸透度は素晴らしいものがあった。ひとつには(選手との)コミュニケーションが良好だったことがある。そしてわたしのアイデアや哲学、サッカースタイルというものを、選手たちがすぐに理解してくれた。わたしが選手に強調しているのは「楽しんでプレーする」こと。そして、チームには約束事があるということ。つまり、約束事を守りながら楽しむことを選手たちには伝えていた。幸い、わたしが求めていることについて、選手たちはすぐに理解して実践してくれた。わたし自身(選手の吸収の速さに)とても驚かされていた。

――今季の数字を見ると、得点が1位リーグタイ(V・ファーレン長崎と同じ61)、失点が下から2番目の28(試合数が少ないソニー仙台を除く)。そして得失点差が断トツの+33でした。町田といえば、攻撃力ばかりが話題になりますが、むしろ「攻守のバランスが非常にとれている」というのが適切だと思います

 以前の会見でも申し上げたと思うが、われわれは攻撃しながら守備をする。つまり、攻撃こそが最大の防御だ。それを3部リーグで実践できるチームは少ないだろうし、われわれが目指すサッカーの質や志といったものは、J1レベルのものだと自負している。うちの試合を見てくれれば、最終ラインの高さに気づくことだろう。自陣ゴールから40メートルのところでラインを作っている。そんなチームは、Jリーグでもそれほど多くはないはずだ。

――と同時に、ポゼッションもかなり意識していますよね?

 そう、具体的な数字には表れていないが、試合ごとのポゼッションも、われわれのほうが圧倒的に上回っている試合のほうが多い。それこそが、わたしが目指してきたサッカーだ。われわれが常に主導権を握りながら、サッカーをすること。逆にいえば、相手に合わせてリアクションに回らないということだ。

 もっとも序盤戦は、チームが成熟していないこともあり、つまらないミスやセットプレーから失点することが少なくなかった。原因は、集中力の欠如と経験不足だ。しかし試合を重ねることで、選手たちが経験値を積み、成熟することで、そうした失点は確実に減った。リーグの後半戦では、失点が3割くらい減っている。個人もそうだが、チームとしても成長・成熟することで、しっかり戦える集団になっていった。

若手の積極起用と大胆なコンバート

――今季の町田は、優勝したSAGAWA SHIGA FCに勝ち越すなど、強いチームには善戦しました。また連敗が一度もなかったことも評価できると思います。その一方で、ソニー仙台やアルテ高崎やブラウブリッツ秋田など、リーグ下位のチームにころっと負けています。それぞれ敗因は異なるにしても、とても不思議に思っていました

 経験のない選手が出ていたことを考えれば、調子に波があるのは仕方のない話だよ。忘れてはならないのは、うちのチームには経験豊かな選手がいなかった、ということ。たとえば田代(真一)。彼は23歳だが、それまでトップレベルでの試合経験はなかった。太田康介。彼は今季、初めてセンターバックを任された。小川巧。彼もまたレギュラーで、しかもボランチをやるのは今季が初めてだった。わたしがその決断をした時、クラブの人間は「正気か?」と言っていた(笑)。もともとは中盤のワイドかトップの選手だったからね。鈴木崇文。彼もまた、シーズンを通してレギュラーを張ったのは今年が初めて。いつもは左のワイドだったが、今季は左のワイドやトップ下、ボランチもやっていた。

――未経験の選手を使うのは、確かに自信につながると思いますが、当然リスクも覚悟しなければならない。ポジションのコンバートについては、それ以上のリスクを背負い込むことになります。ポポさんには「うまくいく」という確信はあったのでしょうか?

 もちろんだ。自分が見て「この選手はここでできる」という確信があった。問題は、選手自身が「自分ならできる」と信じること。わたしとしては(経験は浅くても)能力的には何ら問題ないと考えていた。

――そんな経験値が足りない選手が多い中、ポポさんがオーストリアから呼んだディミッチの貢献度は大きかったですね

 ディミッチに関しては、スタッツを見ても明らかなように、MVP級の働きをしてくれた。13ゴール決めて、アシストも20を超えていたと思う。しかも彼は、日本に来るのは初めて。それでも、言葉や習慣の違いに戸惑うことなく、これだけの活躍をしてくれた。それからFWの勝又(慶典)も、チームによく貢献してくれた(注:チーム最多の16ゴールを挙げ、今季JFLのベストイレブンに選出された)。それと同じくらい、若い選手が頑張ってくれた。韓国人のユン・ソンヨルは、右サイドバックという未経験のポジションで公式戦デビューをした。大竹(隆人)にしても三鬼(海)にしても北井(佑季)にしても、真摯(しんし)にサッカーに取り組んで、わたしの指示に対する反応も素晴らしかった。

――町田が今季、昇格を達成した要因はいろいろあったと思います。その中でも特に大きかったのは、チームの成長と選手の成長がシンクロしていた、ということでしょうか

 まさにあなたが指摘した通り、チームも個人も成長したからこそ昇格できたと思うし、われわれはそのために仕事をしてきた。そして選手たちは、わたしの言葉を信じてよくついてきてくれた。実際、自分たちがどれくらい成長したか、彼ら自身が実感してくれていると思う。この1年の選手のサッカーに取り組む姿勢については本当に感謝したい。

――最後の質問です。町田との契約は今季で切れますが、来季も日本でお仕事をされるようですね。ズバリ、一番成し遂げたいことは何でしょう?

 わたしの目標は、日本で大きなことを成し遂げたいということ。つまり、チャンピオンになることだ。と同時に、自分のチームから、より多くの代表選手を輩出したいね。かつての大分のように。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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