「チームも個人も成長したから昇格できた」=ランコ・ポポヴィッチ(町田ゼルビア)インタビュー
「ビジョンに共感できた」と、ポポヴィッチはJFLの町田監督就任にも抵抗はなかったと話す 【宇都宮徹壱】
昨年の相馬体制下、町田は昇格条件となる4位以内(3位)という好成績を収めながら、スタジアムの諸条件をクリアできず、またホームゲームでの平均入場者数の基準となる3000人も下回ったため、涙をのんでJ入りを断念している。その年のオフは、相馬監督がチームを去り、木島良輔(→松本山雅)や深津康太(→東京V)といった主力選手も流出。それでも「来季こそJ昇格」を最大の目標に掲げていたクラブは、あえて新しい指揮官を国外に求める。そこで白羽の矢が立ったのがポポヴィッチだった。
いくらJリーグでの指導経験があったとはいえ、クラブにとっても当人にとっても、ずいぶんと思い切った決断であったと思う。だが、それ以上に驚かされるのが、今季の町田の実績である。勝ち点61の3位という成績は去年と同じだが、今年は震災の影響で試合数は1つ少ない。しかも若い選手の成長を促しながらのこの成績は、十分に評価されてしかるべきだ。ここに、指揮官ポポヴィッチの真骨頂が見て取れる。
今季いっぱいで町田を去ることが決まっているポポヴィッチ。まだ正式発表はないが、来季はJ1に復帰するFC東京への監督就任が決定的とされる。今回は「町田の監督」として話を聞いているが、彼の指導理念や哲学は、FC東京のファンにとっても気になるところだろう。そのヒントとなる言葉を引き出せればと思い、インタビュー取材に臨んだ。(取材日:12月15日)
クラブに携わるすべての人たちの思いが一体となって
素晴らしいシーズンだったし、昇格という形で終えることができて、とても満足している。クラブもまた、前進している。最初は決まった練習グラウンドもなく、あちこち場所を変えなければならなかった。今は決まったグラウンドがあり、環境面でも整備されてきている。そして選手たちも「Jリーガーになる」という夢を自分たちの力で勝ち取ってくれた。現場のスタッフや選手だけでなく、サポーターも含めたクラブに携わるすべての人たちの思いが一体となり、その夢を実現させたことは、大きな自信になったと思う。
――戦力的にも、当初は厳しいものになると予想されていました
木島や深津ら、主力を張っていた選手が抜けた中、その穴を若い選手で埋め、さらに質の高いサッカーを実現させることができた。それらもJ2に上がるためのいい判断材料になったと思う。もちろんスタジアムの問題、経営の問題など、クラブにかかわる人たちの努力があったわけだが、現場は現場で努力したおかげで、昇格を実現させることができたのだと思っている。
重要なのはカテゴリーではなく「ビジョンがある」こと
わたしには日本にたくさんの友人がいるので、向こうにいる間もコンスタントに連絡はとっていた。その中でゼネラルマネジャー(GM)の唐井(直)さんからオファーをもらったんだ。
――清水、東京V、そして千葉で強化担当やGMを歴任されていた唐井さんですね。どんなお話をされたのでしょうか?
去年の説明から始まって、3位になったけれど昇格を果たせなかったこと。今年の目標が昇格であること、そしてチームの土台作りをしていくこと。その上で、まずは(Jで戦うための)基盤を作るというお話をいただき、それなら力を貸せると確信した。
――なるほど。とはいえ、今回のオファーはJクラブではなく、3部に当たるJFLです。その点については抵抗はありませんでしたか?
わたしにとって、カテゴリーが3部だろうが4部だろうが関係ない。重要なのは、そのクラブに明確なビジョンがあるかどうかだ。唐井さんのオファーは単なる夢物語でなく、しっかり未来を見つめながら、実現可能なビジョンを持っていて、それにわたしも共感することができた。
――その後、開幕前の1月に初めてチームに合流するわけですが、そこで気づいたことはどんなことでしょう? 特に足りないところとか
わたしはセルビアでもオーストリアでも、2部から4部までのカテゴリーで指導しているので、ここに来て特に驚くことはなかったし、足りないと思ったこともなかった。わたしがやるべきことは、日ごろのトレーニングやコミュニケーションの中で、いかに選手のポテンシャルを最大限に引き出すか――。そのことは練習初日から心掛けていた。