聖和学園、異彩を放つドリブル集団=第90回高校サッカー選手権・注目校紹介 第2回

鈴木智之

最終ラインからでもドリブルで攻め上がる

聖和学園は初戦で香川西と対戦。147センチと小柄な高橋奏(左)のドリブルは必見だ 【スポーツナビ】

 スタイルへのこだわりは、参加48校の中でもナンバーワンだろう。聖和学園の特徴はドリブル。すべての選手がドリブルを得意とし、どのポジションからでも果敢に相手を抜きにかかる。聖和学園のスタイルを象徴するのが、センターバックを務めるキャプテンの斉藤健だ。最終ラインで相手からボールを奪うと、チャンスと見るやドリブルで攻め上がっていく。

 トーナメントを勝ち上がるため、守備の選手に“セーフティファースト(安全第一)”を求めるチームが多い高校サッカーにおいて、斉藤を含む聖和学園のプレーは異質なものに映る。事実、高円宮杯プレミアリーグ参入決定戦では、GKが最終ラインから足元でつなごうとしてボールを奪われ、失点を喫して敗れた。それでもなお、彼らはGKがパスをつなぐプレーも、最終ラインの選手がドリブルで攻め上がるプレーもやめようとはしない。「おれたちはこのやり方で勝つんだ」という、加見成司監督以下、選手たちが持つ“聖和スタイル”へのプライドが強烈ににじむ。

 加見監督のドリブルへのこだわりは、女子サッカー部のコーチを務めていたときの経験が元になっている。「聖和の女子サッカー部と神奈川にあるエスポルチ藤沢というジュニアユースのクラブが試合をしたのですが、エスポルチの選手たちがとにかくうまかったんです。ボールコントロール、ドリブルのうまさになんだこれは! と衝撃を受けましてね」(加見監督)

 その経験がきっかけで、エスポルチ藤沢の代表を務める広山晴士氏(かつて東京ヴェルディなどでプレー)に教えを請い、徹底してボールコントロール、リフティングのメニューを練習に取り入れるようになった。それから数カ月後、女子サッカー部はそれまで培ってきたパスサッカーに個人技を織りまぜた新たなスタイルで、全国優勝を果たすことになる。

 その後、学校の男女共学化とともに、加見監督は男子サッカー部の監督に就任。チームのスタイルはもう決まっていた。「僕は名古屋グランパスでプレーしていたのですが、技術がなくて、長く現役を続けられなかった。そこで、やっぱりサッカー選手は技術がないとダメだなと再確認したんです。指導の道に入ってからは、自分が選手時代に経験したことは全部捨てました。選手時代にやってきた練習メニューを与えて、トレーニングさせることはいくらでもできるんでしょうけど、目の前の選手に合った練習は何だろうって考えたら、変わってくるじゃないですか。指導者になってからは、イチから学ぶために、プライドは捨てたんです」(加見監督)

娯楽性は大会屈指

 ジュニアユース年代ではドリブルやボールコントロールを中心に、徹底的に個人技を磨く指導をしているクラブが全国にある。そのクラブに通う選手たちが「聖和のサッカーがしたい」という気持ちを胸に入学し、今では宮城県内の選手と、ほかの地域の選手が切磋琢磨(せっさたくま)する環境ができあがっている。

 聖和学園の初戦は12月31日、柏の葉で行われる香川西戦だ。おそらく、試合を見た人の中には、「もっとパスを出して、サイドを広く使えばいいのに」と感想を持つ人も多いだろう。それは監督以下、選手たちは百も承知なのである。その上で、中央の狭いスペースをドリブルやスイッチプレーなどを使って攻略し、ゴールを決めることにこだわりを持っているのだ。

 スタイルへのこだわりは48校中ナンバーワンだが、選手が見せるプレー、娯楽性も大会屈指だろう。10番を背負う高橋孝冴、147センチと小柄な体格を生かして、ゴール前の密集地帯に割って入る高橋奏太。突貫ドリブラーの石原煕季。そしてなんといっても、対人プレーに強く、足元の技術に優れた斉藤と池田リアンジョフィ。この2人は大会トップレベルのセンターバックコンビである。

 彼らが貫く、清々しいまでの攻撃精神と磨きに磨いたドリブル、ボールコントロールのテクニックは一見の価値がある。サッカーとは楽しいもの。そんなサッカーの原点を思い出させてくれるチームだ。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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