バルサが貫く「シンプルなこと」=小澤一郎のバルセロナ密着記
キックオフ直後に決まっていた勝負の行方
バルセロナはサントスに4−0で快勝し、2年ぶりのクラブ世界一に輝いた 【写真は共同】
4−0でバルセロナがサントスに完勝したクラブワールドカップ(W杯)決勝をバルサ側の視点で表現すれば、これが一番ふさわしい言葉ではないだろうか。試合前日の会見でグアルディオラ監督が「戦略的にどうこうというより、とにかく試合を支配していきたい。特にどの選手をマークするというのではなく、自分たちのボール支配率をできるだけ上げたい」と語った通り、バルサはあくまでバルサらしく71%のボール支配率でサントスを圧倒。ネイマール、ガンソといった違いを生み出せる選手がいても、ボールがなければ、ボールが渡らなければ、サントスとて攻めよう、勝ちようがない。
試合の行方はキックオフ直後に決まっていた。サントスは後方でブロックを作り、スペースを埋める戦術を用いてきたが、それを機能させるためには大前提としてボールホルダーへのプレッシャーが必要となる。しかし、サントスの選手たちのアプローチ、プレッシャーは、バルサの選手からすれば“ノープレッシャー”な状態。序盤からバルサの選手たちは自由にパスを回していった。
バルサにボールを持たれる、支配率で優位に立たれることは仕方がないとしても、球際の厳しさがなければ話にならない。それは、準決勝でバルサと対戦したアルサッドが残した欧州王者攻略のヒントだった。だが、前半のファウル数(サントス5、バルサ7)のデータからも分かる通り、球際の厳しさでさえバルサに軍配が上がっていた。
もちろん、ボールホルダーへ飛び込んでも巧みなテクニックでかわされるか、パスではがされてしまうので、サントスの選手はキックオフ直後に「厳しくいっても無駄だ」と感じ取ったのかもしれない。選手のレベルが上がれば上がるほど、そうした直感のレベルも上がる。裏を返せば、バルサのボール回しというのは相手のリスペクトを一瞬で恐怖心に変え、相手の足を止める威力を持つものだと言える。とはいえ、前半でバルサが3点を奪い、45分間で試合の決着をつけてしまった展開の要因は、“バルサ”という主語を用いて語るよりも、“サントスの球際が”あまりに緩く、バルサに自由にサッカーをやらせたことにあったと分析する。
バルサだからこそ、メッシはメッシとして輝く
決勝でもメッシにゴール前で決定的な仕事をしてもらうために、ほかの選手が攻守でハードワークをしたり、メッシが足を止めることで生まれるスペースを埋めるために、ほかの選手がポジション移動を繰り返してバランスを保っていた。その意味で、決勝のみならず、このクラブW杯は「バルサだからこそ、メッシはメッシとして輝く」ということが、あらためて証明された大会だった。
“メッシありき”のバルサであれば、メッシのいるアルゼンチン代表も世界で覇権を取れるはずだが、実際にはそうはなっていない。これがサッカーというスポーツの持つ奥深さであり、魅力ではないだろうか。試合前日の密着記で、「明日(決勝)は『サッカーは11人で戦うスポーツ』という本質をピッチ上から見いだしてもらいたい」という見どころを書いて締めた。まさにクラブ世界一のタイトルを獲得したバルサはチームとして、組織としてサッカーの本質をピッチ上で見事なまでに表現できている。
また、試合後の会見でバルサのサッカーのメカニズムについての質問が出た際、グアルディオラ監督が「もっとシンプルなことだと思う」と話していたように、今のバルサというのは行き着くところまでシンプルさを貫いている。会見では、フォーメーションについての質問も出ていたようだが、この決勝でのバルサのシステムが1−4−3−3なのか、1−3−7−0なのかという議論をしたところで大した意味はない。グアルディオラ監督が「単なる数字の羅列では?」と逆に質問した通り、バルサには“ボールを支配する”というコンセプトに基づく明確なプレーモデルがあり、戦術やシステムというのは状況に応じて流動的に変化する。