スタジアムで注目すべきはGKバルデスのポジショニング=小澤一郎のバルセロナ密着記
圧倒的な個を生かすためのコンセプト
メッシ(中央)が輝けるのも、個を生かすためのコレクティブなプレー、コンセプトがしっかりしているからこそ 【写真は共同】
その15分で見ることができた練習メニューはボール回しとゴール付近でのフィジカルトレーニングを組によって入れ替えたサーキットトレーニング1つだけ。ロンド(鳥かご)と呼ばれるボール回しの練習では、6〜9対2の設定、外の選手は1タッチというタッチ制限付き。そこにはビクトル・バルデス、ピントら登録3名のGKも入ってフィールドプレーヤーと同じようにボールフィーリングを確かめていた。
ロンドのみならずボールポゼッション練習でもGKが入るのがバルサ流のトレーニングメソッドであり、そうした練習で培われたのが「GKを含めた最終ラインからつなぐサッカー」。現時点で世界最高レベルのサッカーを実践し、未来のサッカーまでも現在進行形でピッチ上に描いているバルセロナだが、せっかく日本でバルセロナの試合を2試合も見られる可能性がある以上、メッシ、イニエスタ、シャビ、セスクといったスター軍団の“個”だけを見て「すごい」「異次元」と感嘆するだけではもったいない。
個人的に注目したいのは圧倒的な個を生かすためのコレクティブなプレーであり、コンセプト。バルセロナは、チームとして「ボールを持つ」ことの有効性を信じて自陣からのゴールキックでさえも大きく蹴り出さない。ビクトル・バルデスという足元の技術に長けたGKがいるからではなく、そうしたGKを生み出す土壌、サッカーこそがバルセロナの魅力でもあり、特にスタジアムに足を運ぶサッカーファンはテレビ画面からはなかなか見えてこないバルデスのマイボール時のポジショニングやプレーに参加する度合いについても気にしてほしい。
対戦相手へのリスペクトを本音として持つペップ
グアルディオラ監督の会見で印象に残ったのは、対戦相手へのリスペクトを建前ではなく本音として、また礼儀としてしっかりと持っていること。相次ぐ“エル・クラシコ”(伝統の一戦)への質問に対して、「レアル・マドリー戦は過去」と、くぎを刺し、アルサッドの印象をこう述べた。「アスリート的観点からして、とても強いチーム。前線にはスピードがある選手がいて、高い選手がそろっていることから空中戦にも強い。チームとしてはドリブルが多く、セントラルMFは強さと運動量を兼ね備えている。このスタジアムは広いので、なるべくワイドなサッカーを心掛けたい。彼らはコンビネーションプレーが少なく、長い距離のドリブルでカウンターを仕掛けてくる。われわれがプレーに強さと速さを持つことが鍵となるだろう」
グアルディオラ監督が自らここまで相手の特徴、サッカーを分析することは異例なことで、相手を丸裸にするようなペップの分析リポートを聞きながら、われわれメディアや、その先にある世界中のサッカーファンに「明日はバルセロナとアルサッドのゲームを楽しんでもらいたい」というメッセージが含まれていることを感じた。サッカーは相手あってのスポーツであり、明日の準決勝の相手はレアル・マドリーではなく、アジア王者のアルサッドだ。
これだけのスターをそろえる常勝軍団だけに、しばしば対戦相手の存在を抜きにバルセロナのサッカーを語られることが多いのだが、先に紹介したバルセロナのコレクティブなプレーも、アルサッドというリスペクトされるべき相手あってこそ実現されるものだということを再確認させられた。
<了>
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