柏レイソルを優勝に導いた“ネルシーニョ・マジック”=昇格チームに植え付けた勝利の文化

鈴木潤

2年間で一度も連敗を喫していない

最終節でも先制点を決めたワグネル(中央)の存在や、田中(右)、酒井ら若手の台頭も目立った 【photo by 原田亮太】

 優勝する要因になったものの1つとして、選手のメンタリティーにも触れておきたい。柏は10年から2年連続、チームスローガンにはポルトガル語で「勝利」を意味する“VITORIA”という言葉を用いている。これはネルシーニョが柏のクラブに「勝利の文化」を植え付けるという意図から彼自身が選んだものだ。

 全試合に勝つことは難しい。だが、勝つために最善を尽くす。そして先を見越すのではなく、「目の前の一戦一戦を常に決勝戦だと思って全力で戦う」と何度も働き掛け、選手たちのマインドに「勝利」に対する意識変化をもたらした。天皇杯で学生やアマチュアと対戦した時でも「誰も休ませることはしない。フルメンバーで勝ちにいく」とネルシーニョは公言し、Jリーグの試合同様非公開練習を行い、実際に試合ではベストメンバーを組んだ。

 さらに、こうした勝利に執着する意識は引き分け、あるいは敗戦を喫した後の試合にこそ大きく発揮される。「落とした勝ち点は、必ず次の試合で取り戻す」というネルシーニョの働き掛けが実を結んだのだろう。今季の柏は2試合連続未勝利がなく、引き分けや敗戦の後には必ず勝利を収めている。もちろん、試合で抽出された課題点・問題点を次の試合までに修正する監督の手腕、選手の能力も評価されるべきだが、この2年間で大きく成長した選手のメンタリティーは見逃せない部分でもある。10年からの2年間、柏は一度も連敗を喫していないという驚がくのデータが残っているのだから。

「優勝するにふさわしいチームになれた」

 シーズン終盤、優勝争いが佳境に入ると、各評論家は名古屋とG大阪を優勝候補に挙げ、「柏は優勝経験がなく、優勝争いのプレッシャーに勝てるかどうか」と選手のメンタル面が不安視された。ただ、もうすぐ30年に迫ろうかというネルシーニョの監督としてのキャリアには数々の栄光が刻まれており、優勝に対するメンタルコントロールは、おそらくJリーグの監督の中でも屈指の手腕を誇る。
 さらに、ワグネルはブラジル時代に在籍していたバイーア、クルゼイロ、コリンチャンス、インテルナシオナル、サンパウロ、全5クラブで9回もの優勝を経験した。北嶋は11年前に優勝を逃した悔しさを知る。2度の降格の憂き目を見た大谷は、「入れ替え戦のプレッシャーに比べれば、優勝争いは前向きなプレッシャーですから、硬くなったりしません」と周囲から聞こえる雑音を笑い飛ばす。

 今季、柏が記録した逆転勝利は7回。シーズン終盤になってもプレッシャーに苛まれるどころか勝負強さを発揮し、最終節では真っ赤に染まる埼玉スタジアムで、今季の柏らしいサッカーを披露して浦和を凌駕(りょうが)した。
「優勝するにふさわしいチームになれたと思う」
 プレーの質、組織力、そしてメンタリティーを含め、大谷の言葉に異論を挟む余地はない。

 柏はこのリーグ優勝で、8日から開幕するクラブワールドカップに出場する。優勝した直後から選手たちには、早くもそれに関連した質問が投げ掛けられ、北嶋は「同じように目の前の一戦一戦を全力で戦い、やるからにはタイトルを狙う」とこれまで通りのスタンスを崩していない。レアンドロとワグネルは過去にはサントスとの対戦経験も多く、母国のクラブと「試合がしたい」という気持ちをあらわにしながらも、「8日のオークランドシティ戦に向けて万全の準備をしていく」(ワグネル)と、まずは初戦に目を向けていた。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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