アイルランド、屈辱の日を乗り越えユーロ本大会へ=東本貢司の「プレミアム・コラム」

東本貢司

基本はやはり「守って速攻」

キーン(右)、ダフ(左)らベテランにとっては、ユーロ本大会が代表キャリアの花道となるだろう 【写真:AP/アフロ】

 トラパットーニ到来以降、戦術的にあくまで速攻主体の従来との違いが見えてきているとすれば、中盤でのショートパス交換と厳しいフォアチェックが目立つようになったくらいだろうか。その点でキーマンとなるのが、スケールはともかくかつてのロイ・キーンに似たタイプのウィーランと、そのパートナーとして汗をかく役目のアンドリューズ。
 だが、いかんせん、2人にこれといった創造性や柔軟なスキルが欠ける分、ダフやロビー・キーンまで頻繁に絡んで中盤を作りながら、ハントの突破力を生かすのが主なパターン。多くの場合、手数を省いたカウンターと守備に重点をかけた戦い方が主体となる。

 相手や展開次第で、両サイドを広く活用したオープン攻撃では、早いドリブルとクロスの精度に優るマッギーディーやコールマンの起用もあるが、基本はやはり「守って速攻」、つまりチーム一丸となった頑強な粘りとタフネスがすべてだと言って差し支えないだろう。
 とはいえ、それこそが小細工をしないアイリッシュ・フットボールの伝統ともいうべきものであり、何がなんでも怒とうのカウンターアタックを仕掛けてこそ活路も開け、名にしおうアイリッシュサポーターも陽気に小躍りして熱くなる。スコットランドなどと同様、借り物の戦術ではたとえ勝ったところで、観衆もファンも納得しない。その辺はトラップも重々理解してのみ込んでいるらしく、事細かな戦術指導は控えているとも聞く。

 イタリア人ならたぶん、今でも覚えているに違いない。94年W杯本大会初戦で迸るようなアイルランドイレヴンのファイティング・スピリットにたじたじとなって敗れたことを。たとえ、それがGKパリューカのミスによるラッキーパンチだったとしても。
 突き詰めれば、アイルランド代表史上、最多のゴール数を誇る円熟のロビー・キーンからどれだけ(目の覚めるカウンターから)ゴールが生まれるかが最大の鍵であり、売りだ。

円熟のロビー・キーン

 余談になるが、かつて若きロビー・キーン(当時コヴェントリー在籍)に目を付けてインテルに引っ張ったのはマルチェロ・リッピだった。ところが、しばらくしてそのリッピが解任され、後任に就いたマルコ・タルデッリはキーンをあまり評価せずに、控えに甘んじさせた経緯がある。揚げ句、わずか半年前後でリーズに逆輸入される形になったのだが、そのタルデッリこそ、現在ダブリンにてトラパットーニの副官を務めているのである。

 一説には、キーンを擁するリーズがチャンピオンズリーグでベスト4に進出し、その後移籍したトテナムで全盛期を過ごしたロビー(彼は通算約8年間のトテナム在籍中に120ゴール以上をマークしている)を見て、インテル首脳部は歯噛み悔しがったという。
 なんとまあ“気の長い”話ではあるが、もしもあのころ、リッピ解任もなく、あるいはタルデッリに見る目があったなら、ロビー・キーンは20世紀末からのインテルを象徴する異邦のエースストライカーとして、今に名を残していたかもしれないのだ。

 そのキーンも三十路を越え、今ユーロ本大会が代表キャリアの花道となる可能性は非常に高い。それはギヴン、ダン、ダフにとっても同じこと。だとすれば、この大ベテラン・カルテット練達の闘魂が、三本の矢ならぬ四本の矢を束ねた“ごっつい”オーラパワーを発揮した日には、かつてジャック・チャールトン監督時代の90年W杯イタリア大会で残した「ベスト8」に匹敵する、いや「それ以上」の成果だって、決して夢ではないのかもしれない。

<了>

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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