注目度増す二人の新鋭、新鍋理沙&岩坂名奈=バレーW杯 欠かせぬ戦力として勝負のとき

田中夕子

ワールドカップで頭角を現した新鍋(左)と岩坂 【坂本清】

 試合前のハイタッチで気持ちを高め、コートへ向かう。

 ウイングスパイカーの新鍋理沙と、ミドルブロッカーの岩坂名奈(ともに久光製薬)。一方はせっかちで、一方はマイペース。

 バレーボール女子ワールドカップ(〜18日、東京など)開幕前に行われたメンバー発表の記者会見では「緊張して胃が口から出そう」と青ざめていた21歳コンビが、ともに4戦で先発出場。日に日に彼女たちへ送られる声援の数も増え、ちょっとした、時の人になりつつある。

高いスパイク効果率を誇る新鍋

スパイク効果率が高く、勝負強さが魅力の新鍋 【坂本清】

 全日本ではライトに入る新鍋は、久光製薬ではレフトに入りサーブレシーブの中心として活躍。昨年のV・プレミアリーグでは、新人賞を獲得した。
 初めて代表に選出され、初めてのワールドカップで開幕戦からスタメン出場。ここまでトントン拍子で進んできたが、1メートル75センチと決して恵まれた体格ではない彼女が持つ武器とは、一体何なのか。

 たとえば、最も期待を寄せられるサーブレシーブ。チーム内でも1、2を争うレシーブ力を持つ選手ではあるが、ここまでの5試合で木村沙織(東レ)(120本)、佐野優子(イトゥサチ/アゼルバイジャン)(86本)に次ぐ64本を受け、セッターの1.5メートル以内への返球は29本。新鍋の倍近い数字を受ける木村が75本であることを考えれば、さほど目を引く数字ではない。攻撃面に目を向けても、87本のスパイクを放ち29得点で14失点。やはりこれも数字の上では決していいと言うほどではない。
 
 華麗なフライングレシーブや、豪快なバックアタックのように派手なプレーをする選手ではなく、最後の1点を決めるトスが上がってくる選手でもない。
 だが、そんな新鍋を真鍋政義全日本女子監督は「勝負強い選手」と称し、V・プレミアリーグで対戦したチームのコーチはこう評価する。

「プレッシャーをかけようと執拗(しつよう)にサーブで狙い続けても崩れない。バシバシ決めるわけではないけれど、常に安定した働きができる。彼女のようにバランスを備えた選手はそういません」
 スパイカーの指針を測るうえで、最もわかりやすいのは「何本打って、何本決まったか」を示すスパイク決定率だが、試合中にアナリストから送られてくるデータの中で真鍋監督やセッターの竹下佳江(JT)、そしてスパイカー陣が重視するのは決定率ではない。 スパイク決定本数から失点数と被ブロック数(相手にブロックされた本数)を引いた数を、スパイク総本数で割る。これによって導き出される「スパイク効果率」が勝敗につながり、選手起用の面でも大きな要素を占めている。
(※例えば、10本放ったスパイクのうち5本が決まれば、スパイク決定率は50%。5本決まっても、3本被ブロックされるかミスをすれば、スパイク効果率は20%と算出される)

 新鍋はこの「どれだけスパイクが効果を発したか」を示す「効果率」のアベレージが高い。試合を通して相手に得点を与えることが少なく、自チームに安定した効果をもたらす。それこそが、真鍋監督の言う新鍋の「勝負強さ」であり、彼女の武器でもある。
 しかし、9日のドミニカ共和国戦では、17本中6得点と打数自体が少なかったことに加えて、被ブロックが1本、スパイクミスが3本。これまでの試合と比べれば、合格点と言える結果ではなかった。「サーブレシーブを自分の感覚でできるようになってきた」と手応えを感じているからこそ、新鍋自身も特に攻撃面においては課題の残る試合となった。
「1枚(ブロック)なのにミスをしたり、相手に止められてしまったり。特に攻撃面では、まだまだ全然納得できていません」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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