セリーナ「言ったことを後悔している訳ではない」=コメントで振り返る全米オープンテニス・女子編

内田暁

全米テニス女子シングルス決勝で主審に抗議するセリーナ・ウィリアムズ 【Getty Images】

 ニューヨークの象徴とも言える貿易センタービルに旅客機が衝突した同時多発テロから10年――。ニューヨークにとり最も重要な意味を持ち、多くの人々が思いを共有する2011年9月11日に、全米オープン女子決勝は行われた。

 本来なら、この日には男子決勝が行われるはずだったが、度重なる悪天候の影響でスケジュールがずれ込んだため、9月10日に行われるはずの女子決勝が、翌日の日曜日に開催されたのだ。
 その記念すべき決勝の舞台に立ったのは、米国のセリーナ・ウィリアムズと、オーストラリアのサマンサ・ストーサー。10年前、同時多発テロが起きるわずか3日前にも同じ舞台で戦っていたセリーナ・ウィリアムズが、メモリアルな日に再び世界の頂点をかけニューヨークで戦うというシナリオは、天の配剤のようにすら感じられた。

テロから10年、それぞれの9.11

「信じられない気分だわ! どうしても、明日の試合に出たかったの。明日は米国にとって、特別な日ですもの」セリーナ・ウィリアムズ

 準決勝でウォズニアッキを破った瞬間、セリーナはまるで優勝したかのように、体を反らせて高々と飛び上がると、全身で喜びを表現した。

「ワシントンDCに居たの。早朝の便で着いた時、誰も空港に居なくて奇妙に思ったことを覚えているわ。それから1週間は飛行機が飛ばなくてDCに足止めされたわ」セリーナ・ウィリアムズ

 2001年9月11日には、セリーナは姉(ビーナスではない)を訪ねて、ワシントンDCに居たという。

「その日は大会のために、日本に居たわ。私たちは5人のグループで一緒に行動していて、その内の一人が『テレビを見た!? 凄いことが起きてるのよ』と部屋に電話をしてきたの。でも当時17歳の私たちにとり、何が起きているのか正しく理解するのは難しかった。特に日本だから、あまり英語の情報が得られなかったし。でもとてもショックを受けたし、いろいろと情報を集めて、可能な限り何が起きているのかを理解しようとしたわ」ストーサー

 9.11が起きた時、当時17歳のストーサーは、日本で開催中のITFトーナメント(WTAツアーの下部レベルに相当する大会)を連戦している最中だった。この時、ストーサーは4連続で行われた大会のうち3つで優勝し、グランドスラムチャンピオンに向けて、小さな一歩を踏み出したばかりだった。

セリーナは素直にストーサーを称賛

全米オープン女子シングルス決勝でセリーナ・ウィリアムズをストレートで破り、初優勝を飾ったストーサー 【Getty Images】

 米国のみならず、多くのテニスファンがセリーナの圧倒的優位を予想する中、決勝戦で終始主導権を握ったのは、ストーサーだった。高くバウンドするキックサーブやフォアの逆クロスなどの武器に加え、強打とスライスを織りまぜたバックのショットで、ストーサーはセリーナを完全に翻弄(ほんろう)していたのだ。

 不幸だったのは、第2セットの序盤に起きた一つのアクシデントが、この上質のプレー以上に大きく、メディアに取り上げられてしまったことだろうか。
 フォアの強打を放ったセリーナは、その直後に「カモン!」と叫んだが、これがプレー妨害とみなされ、相手のポイントになってしまったのだ。納得いかないセリーナは、主審に抗議する際に暴言を吐き、これにより2000ドル(約15万円)の罰金を課されたのである。

「あれは、ウィナーになると思ったのよ。でも彼女(ストーサー)はラケットを伸ばして、ちゃんとボールに触ったのよね。凄いわ。
 コート上に居る時はとても興奮しているから、主審に何を言ったか良く覚えて無いの。でも、言ったことを後悔している訳ではない。私が残念に思うのは、負けてしまったこと。でも今日は、私にできることは何も無かったわ。サム(サマンサ・ストーサー)は、本当に本当に、いいプレーをしたもの」セリーナ・ウィリアムズ


 試合後の記者会見。件の出来事に質問が集まる中、セリーナは素直に相手のプレーを称賛した。

「10年前の私は、グランドスラムで優勝する日を夢見てはいたけれど、1万ドルの大会と夢のあいだには、ものすごく遠い隔たりがあった。その距離を少しでも縮めるため、今日に至るまで少しずつ小さなステップを積み重ねてきたのよ」ストーサー

 10年前に日本に居た頃、グランドスラムで優勝する日が来ると思っていたかと聞かれ。ダブルスの名手としてまずは名を馳せ、20代後半にてキャリアのピークを迎える、遅咲きのチャンピオンらしいコメントである。

<了>
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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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