福島・富岡高校、変わらぬ情熱で“打倒・尚志”=サッカーができる喜びとともに

安藤隆人

心の奥底からわき上がる“打倒・尚志”

富岡の佐藤監督は「最後は笑って終わる。そういう年にしたい」と意気込む 【安藤隆人】

「尚志を倒して全国へ」――。もう一度、その思いを胸に刻んだ選手たちは、新たな1年を踏み出していた。大垣市長杯では、岐阜U−16との試合に0−2で敗れたが、その後、履正社、中京大中京を立て続けに下し、グループリーグ1位で通過をすると、準決勝では香川西に1−4で敗れ、3位決定戦では立正大淞南に2−3で敗れた。

 結果は4位。しかし、その結果以上に全国の名だたる強豪を相手に真っ向勝負を挑み、善戦を演じた。
「大垣市長杯に呼ばれたことは、ものすごく大きなことだった。相手はどれも全国の強豪校ばかりで、自分たちがどれくらいやれるかと思って挑めた。やれる手応えもつかめたし、明確な課題も分かった。今自分たちが目指す方向性として、間違ってはいないと感じることができた。それに最近は全国に出ていなかったので、全国レベルを感じることができた。香川西さんの守備、立正大淞南さんの粘り強さと勝負強さは本当に勉強になった」(佐藤監督)。

 確かな手応えをつかんだ富岡は今、つかんだ財産を生かすべく、福島市でモチベーション高くトレーニングに打ち込んでいる。今年の主将を務める若松昴平はまっすぐにこう言い切る。

「みんなが支援してくれているから、僕らはサッカーができる。正直、一度はもうサッカーができないんじゃないのか、やっていていいのかと思ったけど、監督、コーチ、そして周りのみんなが環境を作ってくれて、続けさせてくれた。僕は先輩にあこがれて富岡に入ったし、この富岡でサッカーをして全国に出たいんです」

 この思いは全員が持っている。そして心の奥底からわき上がる“打倒・尚志”も。

「尚志には絶対に負けたくない。去年はすべて決勝で負けたし、(選手権で)全国ベスト4にも入った。悔しい思いと、自分たちもやらなきゃと思わせてくれた。尚志に勝つためにはサッカーだけじゃなく、私生活からも見直していかなきゃいけないし、全力を尽くさないといけない。絶対に全国に出ます」(若松)。

最後は笑って終わる1年に

 富岡は8日に開幕するプリンスリーグ東北1部で今季最初の戦いを迎える。
「まずはプリンスリーグで上位進出。試合の中で個々一人ひとりのレベルを上げていきたい。最後は笑って終わる。そういう年にしたいね」(佐藤監督)

 変わらない現状の中で変わらぬ闘志、目標、そして感謝を持ち続けて戦い抜くことこそが、もしかすると現状を変える力を生み出すのかもしれない。たとえ、そうならなかったとしても、彼らが得るものはそれぞれの人生において、とてつもなく大きなものになるはずだ。

 最後にこれだけは付け加えておきたい。

「まだ何も終わっていないんです。残念ながら、僕らの本当のつらさ、苦しさは伝わり切っていない部分がある。自宅に戻れない、学校がない。それは変わらない。それでも、選手は先行きが見えない中でも、目標を持って戦っている」(佐藤監督)

 まだ何も終わっていない。何も変わっていない。それでも変わらない彼らの思いを無駄にしてはいけない――。今年1年間、彼らが示すものを、筆者はしっかりと受け止めて発信していきたいと強く思っている。

<了>

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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