全米優勝を逃した一人きりの“なでしこフットボーラー”=女子アメリカンフットボール・鈴木弘子の挑戦

内田暁

視線は早くも13年目へ

鈴木(写真手前右端)攻守で活躍したが、2点差で敗退。しかし挑戦はまだ続く 【内田暁】

 王者決定戦となるチャンピオンシップも、そのような鈴木の攻守における活躍が求められる試合の一つだった。7点のリードを許して迎えた後半戦、鈴木はオフェンスラインでも出場し、体を張って味方選手が走るための活路を開いた。前半は0点に抑えられたクエイク攻撃陣が、後半には3タッチダウンを決めた事実――。それも、その内2本がランプレイだったことからも、鈴木の存在の大きさがうかがえる。

 その一方で、試合開始直後のプレーで足を痛めてしまった鈴木は、「自分がタックルを決め、相手の攻撃を断ち切れる場面が何度かあった……」と、守備面で本来のスピードと運動量を発揮しきれなったことに、唇をかむ。アメフトにおける2点とは、フィールドゴール1本でひっくり返せる最小得点差。本当に……本当にあと半歩だけ手が届かなかった、全米の頂点である。

「何で、勝てなかったんだろう? 何で、負けちゃったんだろう」
 
 試合後鈴木は、誰に尋ねるともなく、あるいは自分自身に問うかのように、何度もその言葉を口にした。12年の歳月の重みはほかの選手たちも理解しており、試合後には何人ものチームメートから「あなたの夢を叶えてあげられなくて、本当にごめんなさい」と声を掛けられる。また、「すごい活躍だった。あなたが顔を伏せる必要はどこにもない」と激励の言葉をかけるファンも居た。
 チーム競技では、個人の活躍が勝敗に直結する訳ではなく、頭脳戦の側面が強いアメフトでは特に、解にたどり着く道も複雑さを増す。それこそが、この競技の最大の魅力であり、米国で最も愛される所以(ゆえん)であり、そして鈴木が深く引き込まれた理由なのかもしれない。

 もし今シーズンで優勝していたら、現役を引退していたか――?
 
 その問に対し鈴木は、「それはない」と即答する。
 「もし体力の衰えを感じたら、攻守のどちらかに専念すればいい訳だし、衰えも感じていない」
 そう言い切る鈴木の視線は、早くも“13年目の宿願成就”の日に向けられているかのようだ。

 チャンピオンシップの試合後に、幾度となく口を付いた「何で……?」の問い。
 その命題を解く鍵を探すため、もう一つの“なでしこフットボーラー”の戦いは続く。

<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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