馬券アンソロジー あぁ…126万円買い直しの悲哀=乗峯栄一の「競馬巴投げ!第6回」

乗峯栄一

乗峯栄一、伝説の96年・GI複勝コロガシを見よ!

1996年のGI複勝コロガシ6連勝の馬券コピー、ここまでは良かったんだが…… 【写真:乗峯栄一】

「乗峯、お前、またそれか? それしかないんかい!」という声が聞こえてきそうだが、謎のオジサンの怪しい馬券写真を出したからには、自分の怪しい馬券(これは偽造ではないが)も出してみたくなる。見飽きている人は読み飛ばしてください。

 96年春(もう15年前か、古い話だ)、大阪スポニチ紙上で個人的に企画したGI複勝コロガシというのが望外の6連勝を遂げる。
 桜花賞・ファイトガリバー(1着)→皐月賞・イシノサンデー(1着)→天皇賞・ホッカイルソー(3着)→NHKマイル・タイキフォーチュン(1着)→高松宮杯・フラワーパーク(1着)→オークス・ファイトガリバー(2着)で、千円の元手が63万100円までいって7戦目のダービーを迎える。このころになると大阪スポニチでも大きく取り上げてくれるようになり、「ダービー当日は一面にきみの馬券写真を載せるから、前日売りを買ってカメラマンの所に来て欲しい」と言われる。

 コラムやら何やら早めに書いて、土曜夕方5時、終了間際の梅田WINSに滑り込む。地下にある払戻場所でオークス馬券を払い戻す。パシャパシャパシャと聞いたこともない万札を数える機械の音がする。63万と100円玉一個がチャリンと出てきて、2階の馬券売り場までそのカネを持っていかないといけない。館内放送はひっきりなしに「間もなく閉館する」というアナウンスを流している。この時点で既に逆上は始まっていた。

 63万を無理矢理ポケットに押し込み、2階に上がる。でも購入シートの書き方が分からない。出来れば63万100円を一枚の馬券で欲しいのだが、どうも不可能なようだ。仕方なく「63万」と「百円」に分けてシートを塗るが、「63万」の方の馬券が出てこない。横からおばちゃんが顔を出して「馬券一枚で50万が限度」だと言うのだ。
「なんや! カネ持ち用の馬券はないんかい!」
とブー垂れる。長い競馬人生でこんなセリフ吐いたのはこのとき一回きりだ。

 一枚50万が限度なら、「50万」と「13万」と「100円」の三つに分ければいいと思うのだが、すでに冷静な判断力をなくしていた。「50万」と「10万」と「3万」と「100円」の四つに分けて、それぞれ万札を差し込み、それでも閉館間際ようやく馬券を買うことが出来た。

まさかの買い間違い……計126万の馬券はただの紙くずに

 スポニチ・カメラマンとの待ち合わせ場所に行き、「ヒヤヒヤしましたがやっと買えました、63万の複コロ馬券」と目の前に買ったばかりの馬券を掲げて笑顔を作る。でもカメラマンがなかなかシャッターを押そうとしない。ファインダーから顔を外して首をひねり「それ……、単勝ですよね?」とぼくの馬券を指さす。
「何言うの、ばかなことを、はははは」と言いながら馬券見て、みるみる血の気が引いていった。普段は複勝というのはめったに買わないので、無意識に購入シートの「単勝」欄を塗りつぶしていたのだ。

 家に帰って嫁の首を絞め「とにかくうちにある現金引き出せるカードを全部ここに出せ」と言ってカード数枚ひったくり、翌日新宿京王デパート一階の東京三菱銀行で63万引き出す。東京競馬場に着くなり「63万100円のイシノサンデー複勝」を買い直し、ダービー発走の時間まで3時間、柱の陰でうずくまってじっとしていた。そしてダービー発走後2分半で複コロ63万、単勝63万、計126万の2枚(正確には6枚)の馬券はただの紙くずとなった。

1000万、いやせめて360万円がスルリ

2008年秋華賞、1千万の“前後賞”的中馬券 【写真:乗峯栄一】

 ついでに、もうこうなりゃついでだ。最近の“快心”馬券も出す。

 08年秋華賞、ぼくは桜花賞・オークスと狙い続けたブラックエンブレム頭と決めていた。水曜に栗東トレセンに行き、栗東滞在している関東で唯一の知り合い、小島茂之調教師を訪ねる。でもタッチの差で茂さんは北海道に向けて出発していた。でも留守役の鈴木助手に聞くと「ブラック順調ですよ」ということだった。陣中見舞いのビールケースをブラックエンブレムの鼻前に置き、ブラックに向けて柏手打って「頼む」と願った。
 だから(4)ブラックが本番で11番人気の低評価でもひるまない。敢然と1着固定流しだ。2着(1)ムードインディゴも8番人気の低評価だったが、懇意な友道厩舎の馬だからこれもしっかりヒモに引く。でもブラックの隣の馬房にいた同じ小島茂厩舎の(15)プロヴィナージュは、これだけは出ようかどうか迷ってたぐらいの馬だから、「これはまさか要らんだろう」とヒモに引かなかった(63万買い間違える男もこのときは間違えて(15)塗ったりしないんだなあ、これが)。(4)頭のヒモ8点流し。3連複は一頭付け加えて9点流しで200円ずつ買う。

 結果はプロヴィナージュが3着に粘って(4)→(1)→(15)。3連単は1098万2020円ついた。
 せめて3連複で、あともう一点、ヒモに(15)を入れていれば、200円ずつの買いだから360万になっていた、ああ……。
 あの水曜、あと30分早く関東出張馬房に行き、小島茂さんに会って「プロヴィナージュ? あ、出しますよ、調子よくなってきたからね」という言葉さえ聞いていれば、最大最高の“馬券効率”になっていたのに。

 いやいや、すべては詮ない繰り言だね。馬券偽造オジサンのように、深くおのれの罪深さを悟った人間の方がよっぽど偉いんだ、きっと。

函館記念はエドノヤマト、ラベンダー賞コスモルーシーも勝負!

ラベンダー賞は高野厩舎のコスモルーシーで勝負! 【写真:乗峯栄一】

 函館記念は園田で連勝して中央に帰れた、まるで同郷の馬のような気がするエドノヤマト◎。前走はミッキーペトラにうまく逃げ切られたが、それで人気が落ちるのがかえって狙い目になる。藤田騎乗も合うはずだ。

 その2レース前、今年の2歳初のオープン戦ラベンダー賞は、開業4カ月半にして7勝、ダービーにもNHKマイルにも参戦するという破格のスタートダッシュをしている高野厩舎に期待する。コスモルーシー◎だ。阪神の新馬戦を勝って賞金加算のために北上するというところが凄い。調子がいいときはどこまでも勝ちに行くのが勝負事だ。

2/2ページ

著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント