シャビを育てた元バルサコーチが日本に提言=「大切なのは、ピッチ上で正しい判断をすること」

鈴木智之

シャビを「グアルディオラの後継者」に育てた男

ビラ(右)はバルセロナの下部組織でシャビをはじめプジョル、ビクトル・バルデスを育てた 【イースリー】

 2010−11シーズン、チャンピオンズリーグ(CL)決勝。バルセロナがマンチェスター・ユナイテッドを「異次元のフットボール」で破り、ヨーロッパの頂点に立った。この試合、バルセロナのゲームメーカーとして、八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を見せたのがシャビだ。中でもペドロの先制ゴールを生んだアシストは、シャビの持つインテリジェンスと高い技術が詰まっていた。ペドロの動きに合わせて次々にプレーの判断を変え、フリーで受けられる最良のタイミングでパスを通したのである。ピッチの外ではグアルディオラが監督だが、ひとたび試合が始まれば、シャビがコントロールタワーとして味方を操る。グアルディオラの描くサッカーを具現化する選手、それがシャビである。

 シャビは13歳のころ、1人の指導者と出会った。彼の名はジョアン・ビラ。現役時代はクライフとともにプレーし、引退後は14年間にわたりバルセロナの下部組織で監督を務めた人物だ。シャビはビラについて、自著『シャビ バルサに生きる』で、こう語っている。

「僕のサッカーにおける師匠は父のホアキンだけど、間違いなく次にくるのがビラだ。ビラのサッカー観はバルサそのもの。彼の言葉ひとつひとつがバルサのサッカーを表現していたし、彼にはバルサの血が流れていた」

 余談だが、シャビを「グアルディオラの後継者になる可能性がある」と、見初めたのがビラである。
 さて、バルサのサッカーは世界中の指導者があこがれ、追い求める理想像でもある。そんなバルサ・スタイルの中心であるシャビをはじめ、プジョルやビクトル・バルデスら数多くの選手を育て上げたビラが、日本のU−12年代の選手を対象としたクリニックを行った。シャビを育てた名伯楽は、日本のジュニア年代を指導することで何を感じたのか。彼の提言に耳を傾けてほしい。

育成の現場では戦術面の練習時間が少ない

――日本のU−12年代の選手の指導をした、感想を聞かせてください

 すごい力を持った子供たちがいると感じています。20人ほどの選手の中で、3〜4人はタレント(才能)を持った選手でした。ボールコントロールやコーディネーションは、この年代で完ぺきに近いものがあると思います。スペインのトップレベルの子供たちと同等、もしくはそれ以上ではないかと驚いています。

――逆に、向上の余地がある点は?

 戦術面です。ただしこれは、日本の子供たちだけの問題ではありません。わたしは世界中の国で指導をしていますが、中国でもポーランドでも、スウェーデンでもそうでした。もちろんスペインの中にも、戦術面のトレーニングをする必要がある子供たちはたくさんいます。

――日本の子供たちが持つ、ボールコントロールの技術、高いコーディネーションに加えて戦術面が身につけば、もっといいプレーヤーになれると?

 その通りです。日本の多くの子供はスペインと同等か、それ以上のクオリティーを持つ子もたくさんいました。ただし、どの選手もこれまで、多くの時間をテクニックの練習に費やしてきたのではないかと感じました。戦術面の練習時間が少ないため、そこを向上させることができていないように感じるのです。

 テクニックを教えることについて、多くの指導者は正しい考えを持っていると思います。体をどうやってコントロールするのか、どうやってボールを触るのか、それを上手に説明できる指導者は多いでしょう。しかし、プレーの判断、決定を下すことについて、どう教えればいいかを理解している指導者は、どの国においても少ないと感じています。

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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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