ブラッターの再選と膨らむ疑念=地に落ちたFIFAへの信頼

FIFAは2015年まで変わらない

汚職疑惑に揺れる中、FIFA会長選挙はブラッターが再選を果たした。しかし、抱える問題は山積みだ 【Getty Images】

「206の協会と203の投票権がある。当選するには102票以上の投票が必要となるが、ミスター・ジョセフ・ブラッターは186票を獲得した。よってFIFA(国際サッカー連盟)会長はジョセフ・ブラッターに決まった」

 FIFAの第一副会長であるアルゼンチンのフリオ・グロンドーナは、聴く者をいら立たせるほどにゆっくりとした口調で何日も前から世界中が知っていたことを宣言した。もう1人の候補者、カタールのモハメド・ビン・ハマムが不正(投票の買収を試みた)の疑いをかけられ出馬を辞退せざるを得なくなった時点で、すでにブラッターの再選は決まっていたのだ。

 ブラッターはほかの役員の拍手を受けながらホール・シュタディオンの舞台に戻ると、手に持つ花束の中から一輪の花を取りだし、小さな女の子に渡した。それはこの3週間で起こった出来事、そして彼自身が引退を表明している2015年まで確実に変わらないだろうFIFAのありさまと、対照をなす光景だった。

イングランドはブラッターに屈した敗者

 第61回FIFA総会は難航した。予想通り、イングランドサッカー協会(FA)のデイビッド・バーンスタイン会長が冒頭からFIFAの現状に対する不満を述べ、ブラッターのほかに立候補者がいないのであれば会長選挙を延期すべきだと主張した。だが、彼の意見は「イングランドとそのメディアはウソばかり言う無作法者だ」と非難するグロンドーナ(CONMEBOL=南米サッカー連盟=所属、アルゼンチンサッカー協会会長)、アンヘル・マリア・ビジャール(UEFA=欧州サッカー連盟=所属、スペインサッカー協会会長)ら首脳陣の主導により却下された。

 イングランドはブラッターに屈した敗者と言えるかもしれない。だが、今回に限ってはブラッターも、波一つない海の上を航海するかのように、自身最後の任期を全うできるとは断定できない。実際、わたしが航海という比喩(ひゆ)を用いたのは偶然ではなく、ブラッター自身が自らを浸水した船の船長に例え、よろめきながらも安全な港へと船を導かなければならないと語っていた。FIFAに対する信用度は過去にないほど失われてしまったのだ。

 ブラッターは現在FIFAが抱える問題の多くが、昨年12月の2018、22年ワールドカップ(W杯)招致投票で行われた不正行為に端を発していると考え、後に発覚した投票の買収行為の多くはコントロールが不可能だったと主張している(ライバルのハマムに向けた間接的な非難が始まったのはこの時が初めてのことだった)。この事件に対し、とりわけ怒りをあらわにしたのがサッカー界の重鎮、イングランドだった。かの国ではサッカー界の上層部からメディア、政治家までもが皆、自分たちが2018年W杯招致でロシアに敗れた原因はそれらの不正にあると考えている。

 それだけに、今後もFAがFIFAに残るかどうかは定かではない。エクアドルサッカー協会のルイス・チリボガ会長が声を荒げて発した「FIFAに残るか脱退するかの決断は各協会の自由だ。自分たちの中で決めればいい」との言葉は記者の注意を引くものだった。彼はまた「出ていきたければ出ていけばいい」とも言っていた。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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