ブラッターの再選と膨らむ疑念=地に落ちたFIFAへの信頼

ヨーロッパ各国のクラブは反旗を翻すと脅迫

6月1日のナイジェリア対アルゼンチン戦で八百長疑惑が浮上。賭博に絡んだ問題は今なお絶えない 【写真:ロイター/アフロ】

 ブラッターが明言したもう1つの差し迫った問題は、コントロール不能な非合法のスポーツ賭博である。彼はすでにこの問題がサッカーの枠を超えていると判断し、インターポールと協力関係を結んで各国政府に刻一刻と困難が増すこの問題の解決に向けた協力を呼び掛けている。実際、彼が会長に再選された翌日には、イタリアで「カルチョポリ2」が明るみに出た。当初は2部の数チームがかかわっていると見られていたこの問題は、その後、セリエAの試合を操作する手助けをしたとして、代表クラスの選手にまで疑いがかけられる事態に至っている。またFIFAは先日、ナイジェリアがアルゼンチンを4−1で下した国際親善試合の調査に乗り出すと発表した。この試合ではレフェリーがありもしないPKと10分間のロスタイムをアルゼンチンに与えている。

 ヨーロッパ各国のクラブも黙ってはいない。バイエルン・ミュンヘンのカール・ハインツ・ルンメニゲ代表は、欧州サッカーにかかわる決定を下す際にFIFAが自分たちの意見に耳を傾けないのであれば、ビッグクラブが結集して作ったECA(ヨーロピアン・クラブ・アソシエーション)はFIFAに反旗を翻すと脅迫している。
 ECAは、EU(欧州連合)パスポートを持たない選手の出場を5人以内に制限する「6+5ルール」の導入にFIFAが賛同しているだけでなく、将来的に「9+9ルール」の適用まで望んでいることに不満を示している。この9+9ルールでは、18歳になるまでの間、クラブの下部組織に所属しなかった選手は9人までしか登録することができない。

 ドイツサッカー協会のテオ・ツバンツィガー会長、イタリアサッカー協会のジャンカルロ・アベテ会長といった各国協会の首脳は、「ほかに候補者がいない現状でFIFAを弱体化させてはならない」という名目を小声で主張しつつ、実は2015年にミッシェル・プラティニUEFA会長が後継者となることを期待しているがゆえに、ブラッターを支持している。そう考えると、ヨーロッパの将来も安心できたものではない。

 北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)が抱える問題もまた深刻だ。同連盟のジャック・ワーナー会長(トリニダード・トバゴ)は、ゼネラル・セクレタリーを務めるチャック・ブレイザー(米国)がビン・ハマムへの投票を買収しようと試みたとして訴えを起こした。この件についてはFIFAの倫理委員会による調査が続いている。

早急な解決策が求められるが……

 こうも混乱した状況の中、FIFAが世界に発し続ける汚れたイメージを憂慮し、すでに複数のスポンサーは上層部の役員に対して圧力をかけ始めた。そのためブラッターは、米国のヘンリー・キッシンジャー元大統領補佐官やオランダのヨハン・クライフといった識者を集めた“要人”委員会の設立、またW杯開催国選定の場を大会実行委員会からFIFA総会に移すなど、緊急に解決策を見いだすことを強いられている。

 多くの疑念が渦巻くこのタイミングで、クライフが委員会への参加を受け入れるかどうかは分からない。また、史上最も血にまみれた争いを繰り広げた70年代の米国政府に関与したキッシンジャーのような人物が、サッカー界に介入することを南米各国はどのように受け取るだろうか。

 フランツ・ベッケンバウアーやペレ、ボビー・チャールトンらで構成される「FIFAタスク・フォース・フットボール2014」も実際に機能しているのかは疑問だ。彼らはPKを与えた際に一発退場とみなされる“最終DF”の基準の緩和、延長戦における4人目の交代枠の導入といったルール改正を検証しているが、判定ミス減少へ向けたテクノロジーの導入有無という第一に検討すべき問題については、いまだに話し合いを行っていない。

 FIFAの首脳陣は続投するが、もはや状況は過去と異なる。彼らに対するコントロールは今後、ますます厳しくなっていくことだろう。

<了>


(翻訳:工藤拓)

2/2ページ

著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント