JTマーヴェラスが悲願の初制覇=黒鷲旗・全日本男女選抜大会<女子>

田中夕子

チームの「最強エース」

全日本選抜バレー最終日、NECを破って初優勝を決め、駆け寄って喜ぶJTの選手ら=大阪府立体育会館 【共同】

 バレーボールの黒鷲旗全日本男女選抜大会は5日、大阪府立体育会館で決勝戦を行い、女子はJTマーヴェラスが初優勝し、プレミアリーグとの2冠を達成した。

 悲願のタイトル獲得を手にする最後のポイント。2−1で迎えた第4セット、25点目のトスを、誰に託すか。
 セッターの竹下佳江に、迷いはなかった。

「このポイントは彼女で取りたかった。きっと、チーム全員の思いは一緒でした」

 高い打点から、コートの奥へ。鮮やかなクロススパイクを決めた彼女、キム・ヨンギョンは、ようやく手にしたタイトルに、満面の笑みを浮かべた。コートの中央に歓喜の輪が広がる中、真っ先にベンチ外の選手やスタッフを「一緒に、一緒に!」と呼んだのが、他ならぬキムだった。
 苦しい状況で迎えたシーズンを、幾度となく盛り立て、勝利へと導いてきたのがチームの「最強エース」。韓国では「100年に1人の逸材」と言われるキムの存在を、チームメイトの山本愛はこう評した。

「高さも攻撃力もあるから、対戦相手にはしたくない。いつまでも、同じチームで戦い続けたい選手です」

 昨年のV・プレミアリーグは、開幕から25連勝と圧倒的な強さを誇りながら、決勝戦で東レアローズに0−3、惨敗を喫した。どれほどリーグで勝ち続けたとはいえ、最後に勝てなければ、負けは負け。
 今シーズンの始まりとともに、チーム目標は自ずと決まっていた。

「今年は絶対に、最後の最後で勝てるチームになろう」

 ところが、リーグの序盤は世界選手権とアジア大会の疲労が蓄積したキムが体調不良で欠場を余儀なくされた。同じく世界選手権出場組の竹下、山本も本調子と言うには程遠い状況。昨年の連勝街道とは一転、開幕から連敗が続いた。

 全員で、最後に勝てるチームになる。そう掲げはしたものの、やはり負けが続くとチームの雰囲気も沈みがちになる。その空気を変えたのが、年明け早々に復調、コートに戻ってきたキムだった。

あの日のアイスクリーム

 実は、気配りの人でもある。
 隠れたエピソードを、チーム最年長の谷口雅美がこう明かす。

「試合を終えて帰る時、新幹線が発車する直前に『みんな疲れているだろうから』って全員にアイスを買ってきて。『そんな外国人(選手)初めてだよね』と、みんな、何だか笑えちゃって。ヨンギョンの人柄もあるけれど、あの気遣い、心配りに救われました」

 1勝、また1勝と昨年とは異なる形で勝利を積み重ね、レギュラーラウンドは残り2試合。初のリーグ優勝へ向けてチームの士気は高まる。
 東日本大震災に見舞われたのは、まさにその時だった。

 未曾有の事態にリーグは中止。そこまでの結果が最終成績となり、JTマーヴェラスの初優勝が決まった。悲願のタイトル獲得であり、リーグ戦の成果であるとはいえ、納得する選手はいない。竹下は「何とも言えない気持ちだった」と吐露した。
 どうにもならない状況だからこそ、モチベーションは次へ向けるしかない。石原昭久監督は「黒鷲旗を真の王者決定戦として、真のチャンピオンであることを証明しよう」と奮起を促し、まさに総力を結集して挑んだ大会が黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会だった。

 6日間で6試合を戦うハードスケジュールを、チーム全員で戦い抜く。そして、その中心で、いつも明るく、「ミスをした選手がいても攻めないこと。みんなでカバーし合えば、きっと悔いのない試合ができるから」と鼓舞し続けた絶対エースがいた。
 だからこそ、最後のポイントはヨンギョンに――。チームの思いがひとつになって、ようやく手にした初優勝。その喜びは、誰にとっても格別の味がすることだろう。
きっと、あの日のアイスクリームのように。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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