長谷部誠、ぶれない姿勢と卓越したプロ意識=残留争いという苦い経験を将来への糧に

ミムラユウスケ

試合への準備を常に欠かさない高いプロ意識

監督に復帰したマガト(左)のもと、長谷部(右)の出場機会は再び増えており、残り試合に向けて期待が高まる 【写真:アフロ】

 嫌らしい記者が、紅白戦でサブ組に回される事実について指摘してくれば、長谷部はこう切り返す。「最初から出る可能性は全然あると思う」。そう答えるのは、長谷部にとってのプロ意識の表れだろう。長谷部は以前、こんなふうに語っていた。

「とにかく、常に(試合に出場する)準備をしていないといけない。その辺はプロとして当たり前のことなので。(試合に)出るかな、出ないかな、というのじゃなくて、出るんだという心構えでいないと」

 今季は3人の監督のもとで、昨季は2人の監督のもとで長谷部はプレーしている。2シーズン前の優勝をピークにチームの混乱は続く。監督が変われば、求められるものも変わる。その都度、適応していかないといけないのだが……。

「変な意味、(監督が変わることに)慣れましたよね。(解任されるのは)監督だけじゃないから。GM(ゼネラルマネジャー)も代わったりしてね。会社で働いているマネジャーとかも代わったりするから。選手の方も意外と何が何だか分からなくなる部分もあるし。だから、難しいところはたくさんある。でも、こういう経験ができているのは、個人的にはいいことだと思っていますけどね」

「どういう形であれ、試合に出ないとだめ」

 今季最初に指揮を執っていたマクラーレン監督は、パスサッカーを目指したが失敗。結果が残せなかったことで、リスクを避けロングボールを増やすサッカーに方向転換をしたり、迷走を続けた。ちなみに、マクラーレンの迷走ぶりは、選手のプレー時間数にも表れている。

 長谷部は第30節を終えて、その約半分にあたる1440分(16試合分)でプレーしている。半分近い試合でプレーしていない計算になるのだが、それでもチームでの出場時間数は上から9番目で、MFの中では3番目。求めるサッカーが何度も変わり、そのたびにメンバーを入れ替えているのだ。昨年10月にレバークーゼン戦、ニュルンベルク戦と2試合続けて失点に絡んだせいか、長谷部は一時期、出場時間を減らしているが、同情の余地もあるだろう。

 マクラーレンが監督だった時期について、「自分のアピールが足りなかったんじゃないですか? 僕はそういうとり方をしますけど」と長谷部は言い訳をしない。

 ただ、マクラーレンが去ってからは、9試合のうち8試合でスタメン出場している。今後もコンスタントに出場機会を得られるだろう。現在のマガト監督が指示するのは、攻撃でのリスクを排除したサッカー。FWにロングボールを当てて、周囲がその周りをサポートしてフィニッシュにつなげる。華麗なサッカーではないが、長谷部自身に迷いは感じられない。

「どういう形であれ、試合に出ないとだめだから。自分がやりたいサッカーとか、そういう問題じゃないから、今はね。残留するためにチームは勝ち点を取っていかないといけない。ただ、今のサッカーを理解して取り組むことで、得られるものがあるだろうからね」

 残すは4試合。1部残留を決められなければ、「得られるもの」が多かったと言えないだろう。長谷部にとってこれからの4試合は、このほろ苦い経験を将来の財産にするための戦いなのである。

<了>

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著者プロフィール

金子達仁氏のホームページで募集されていた、ドイツW杯の開幕前と大会期間中にヨーロッパをキャンピングカーで周る旅の運転手に応募し、合格。帰国後に金子氏・戸塚啓氏・木崎伸也氏が取り組んだ「敗因と」(光文社刊)の制作の手伝いのかたわら、2006年ライターとして活動をスタートした。そして2009年より再びドイツへ。Twitter ID:yusukeMimura

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