広山望、海を渡ってつかんだ現役続行のチャンス=5カ国目の挑戦、米国独立リーグへ

元川悦子

「違った価値観に触れたくてアメリカを選んだ」

広山にとって、海外移籍の原点となったパラグアイのセロ・ポルテーニョ時代。コパ・リベルタドーレスに出場した経験もある 【写真:AFLO FOTO AGENCY】

「リッチモンドの監督はイングランドサッカーをよく学んでいて、練習に参加した限りでは、システマティックで常識的なサッカーを求めていました。ただ、実際にリーグ戦を戦ってみると違った価値観を感じるかもしれません。僕はそういうものにも触れたくてアメリカ行きを選んだところがあります。
 ブラジル時代はアウトサイドでの1対1の勝負に大観衆が沸き返るという特別な雰囲気を感じたし、パラグアイの時は結束して戦って勝った時にみんなで喜びを爆発させる小国のメンタリティーを目の当たりにしました。フランス時代は多民族国家の面白さを感じることもあった。アメリカもフランスやブラジルと同じ他民族国家なので、サッカーのとらえ方もきっと違うと思います。もともとスポーツ好きな国民なので、ポジティブに見てもらえるのではないかと期待してますね」(広山)

 USLは15チームで構成され、アメリカン、ナショナル、インターナショナルの3つのディビジョンに分かれている。リッチモンドはアメリカンディビジョンに参加。アメリカン・ナショナルディビジョンの10チームはまずホーム&アウエー方式で合計18試合を消化。残りの6試合はインターナショナルディビジョン加盟チームと対戦するというやや複雑なシステムになっている。

 リッチモンドは4月2日の第1節オーランドシティ戦を2−0で勝利し、幸先のいいスタートを切ったところ。広山は5日にチームに合流し、今週末9日の第2節ピッツバーグ・リバーハウンズ戦でのデビューを目指している。このチームには横浜F・マリノスや大宮アルディージャなどでプレーしていた原田慎太郎が所属するため、いきなりの日本人対決が実現するかもしれない。

 新天地での適応もこれからだが、広山はスペイン語と英語に長けており、コミュニケーション面は全く問題ない。過去の海外経験で不便な環境でも自らの努力で克服していくことの重要性をよく理解している。中村氏も「アメリカの独立リーグなら楽にやれると考える日本人選手もいるかもしれませんが、そんなに簡単ではありません。環境や条件を含めて過酷な部分も少なくない。それでもわたしは代理人ではないので、基本的に選手の手助けはしません。広山君はそういう事情をよく理解し、自分で積極的に動ける人間ですから、何の心配もいらない。すんなりチームに溶け込んでいくでしょう」と太鼓判を押した。

「Jリーグと欧州・南米以外の海外リーグが並列に」

 近年、彼のようにJリーグで契約先が見つからず、海外に新天地を求めるベテランが増えている。米国の場合も平野、鈴木隆行(ポートランド・ティンバーズ)、山田卓也を筆頭に10人前後がチャンスを求めて海を渡った。中村氏は「日本の評価がその選手のすべてではない」と強調する。
「原田君なんかは好例だと思います。日本にいた時はパスをさばくのに長けたボランチでしたが、アメリカではストッパーに転向し、ガツガツボールを奪える選手に変ぼうしました。最初は英語も話せず苦労していましたが、違ったポジションを与えられ、努力を重ねて新たな才能を開花させていき、4年連続USLベスト11に選出され、2010年USL最優秀DFを受賞するまでになりました。自分のプレー幅や可能性を広げる意味でも。アメリカというのは考えてみる価値のある選択肢だと思います」

 今のJリーグは経営的な理由からベテラン切りが横行している。しかし、日本人選手の寿命は年々、延びており、山田暢久(浦和)のように35歳を過ぎても第一線で戦い続ける選手はほかにもいる。広山自身も「コンディションは若いころと変わらないくらいフレッシュな状態」と話しており、プレー環境が変わればもっと活躍できるはずだ。

「カズ(三浦知良=横浜FC)さんが象徴的ですが、選手たちの意識も高まり、プレーできる期間は確実に長くなっています。でもクラブ経営は厳しくなる一方で、ベテラン選手の処遇は悪化している。そういうこともあって、アジアやアメリカに行くベテラン選手がクローズアップされるようになった。
 でも、これからはJリーグと欧州・南米以外の海外リーグが並列で見られる時代になる気がします。そこで活躍した選手がJに戻るとか、そういう人的交流がもっと増えていい。アメリカにはそんな新しい可能性があると感じます。ピッチ内のことだけでなく、経営やリーグ運営、育成環境などいろんなことを勉強して、いずれ日本のサッカーに還元できればうれしいですね」(広山)

 サッカー人生5カ国目の異国で、彼がどんなキャリアを重ねるのか。飽くなきチャレンジを続ける広山が新境地を開拓し、MLSから注目を浴びるような華々しい活躍を見せてくれることを祈りたい。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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