安田「フィテッセで終わるつもりはない」=オランダで一番有名なダービーで勝利

中田徹

熱狂的なヘルダーラント・ダービー

NECナイメヘンに勝ち、サポーターの声援に応えるフィテッセの安田(左から2人目)=アーネム 【共同】

 オランダで一番有名なダービーが、フィテッセとNECの「ヘルダーラント・ダービー」だ。川を一本隔てたアーネムとナイメーヘンの町ではオランダ語の方言も変わり、お互いにいけすかないやつらだと思っている。だから、両チームにとってこのダービーは1年で一番重要な試合。試合前日、フィテッセの練習の雰囲気はサポーターが乱入して大変だったという。

「昨日はすごかったですよ。やったの、フィテッセのファンですからね。グラウンドに入ったら、もう黄色と白と黒のフィテッセカラーの発炎筒がブワーって10個ぐらい投げられた。その後、爆竹投げ放題ですね」(安田理大)
 それはチームに対する「勝て」というプレッシャーでもあり、サポーターの決起集会でもあったのだろう。

 試合は、フィテッセが12分にNECのDFナイティンクからボールを奪い、FWボニーが先制ゴールを奪った。ナイティンクが泣き出しそうな顔で茫然(ぼうぜん)自失するのを横目に、喜びの選手たちはボニーに抱きつき、安田はGKロームの元へ走り寄ってからゴール裏の応援団をあおった。そんな中、フィテッセのサポーターも、NECのサポーターがいる強化プラスチックで囲われたアウエー応援席の方へ駆け寄ってばかにする。

 結局、フィテッセが2−1でダービーを制した。NECの選手を乗せたバスが去った後は騎馬警官や機動隊が残って物々しく、フィテッセの選手が出てくる玄関にはファンが鈴なりとなって花道を作り、われらがヒーローの帰りとともに野太い歓声がわき続けていた。練習から試合後まで終始こんな雰囲気のヘルダーラント・ダービーだから、「負けたら引っ越さないといけなかった」という安田のジョークにもホッとした感がこもっていた。
 右サイドバックとしてフル出場を果たした安田は、前半はシャテレ、後半はジョージというNECの2人のサイドアタッカーを完封した。特にジョージは瞬発力のある、日本人が苦手とするタイプ。しかし、安田はうまく外に追い詰めながら封じ切った。
「こっちで対峙(たいじ)してきて慣れてきたというのもある。どっちかというと、ああいうタイプの方が僕は好きですね。テクニックで来るんで削れるし、取るか抜かれるという勝負ができる。取ったら気持ちがいい。そういうのが好きですね」

この順位にいるチームじゃない

 1月、オランダでのデビューマッチとなったビレムII戦後、安田はエールディビジのスピードに驚いていた。比較的オランダはゲームのテンポが緩いリーグだけに、その感想にちょっとこちらも驚いたが、さすがにその感触も「完全になくなりましたね」と言う。
「あの時は、自分らのチームが悪かったということすら分からなかったですから。その前の練習試合でも、ぜんぜんメンバーが固まっていなかったですし。なんか試行錯誤しながら進んでいる感じだった。フィテッセがこういうチームなのかなと思ったりもした。今は、そういう不安とかも一切ない。不安があっても、今はポジティブにやった方が絶対こっちでは結果を残せると思う」

 3月29日、フィテッセの公式ウェブサイトに「安田と2013年まで契約延長」の知らせが載った。しかし、安田本人はまだサインをしていない。
「(チームから)契約したいという話は聞いていますけど、僕はまだオフィシャルにはサインをしていません。だから僕もウェブサイトに載って、あれっと思っている」

 現在フィテッセは15位。4月2日のゲームで16位のエクセルシオールが今季初めてアウエーゲームで勝った。NEC戦でしっかり勝ったから、フィテッセはエクセルシオールとの勝ち点7差をキープしたが、危うくまた残留争いに巻き込まれるところだった。万が一、チームが2部に落ちた場合など、安田にはサインを正式にするまで怖さが残っている。
 しかし逆に、このままサインをしていない状況が続けば、安田は今シーズン終了後に自由契約選手となり、ほかのクラブからすれば魅力的な存在になってくる。
「何がいいのかは分かりませんが、僕はフィテッセで監督から信頼されて、こうやって試合に使ってもらっています。半年間やってみて、『シーズン始めからフィテッセでやりたい』という気持ちもあります。レアルやバルサからオファーが来たら別ですけど(笑)、僕の中ではフィテッセでやると自分の中で決めている」

 つまり、ステップアップはしたいが、物事には順序というものがあって、フィテッセから正式な書類が届けばサインをするという理解でいいのか?
「サインはしますね。焦りすぎてもよくないと思う。これから自分が上に行くために、どういうルートを行ったらいいのかというのをしっかり考えたりしたい。そのためには、このチームで結果を出していくことが大事。そのために毎日全力でやる。今日が1年で一番大事な試合ということですけど、それに勝ったことに満足せずに、今日の勝利を次の試合、また次の試合で、この勢いに乗せられるように取り組んでいきたいです。僕が思うのは、このチームはこの順位にいるチームじゃないということ。自信をもってやって、上位にいけるチームだと思う。フィテッセでやっている限りは、1つでも上位を目指していきたいと思う。僕はフィテッセで終わるつもりはないですし、もっとビッグクラブへ行きたいと思っているので、そこを目指して頑張っていきたい」

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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