“強打の日大三”が悔いを残した1球=タジケンのセンバツリポート2011 第11日
打者有利のカウントで動かなかったバット
準決勝で敗退し、肩を落とす日大三高ナイン 【写真は共同】
状況は整っていた。
5点をリードされた日大三高、6回裏の攻撃。2死満塁で打席には6番の菅沼賢一。カウントは3ボール1ストライクだった。
打者有利のバッティングカウント――。
だが、絶好球かと思われた5球目の高めストレートに菅沼のバットは動かなかった。
これでカウントは3−2。ボールが3球続き、窮地に追い込まれていた九州国際大付高バッテリーに余裕が生まれる。6球目(ファウル)まですべてストレートだったが、7球目にスライダー(ファウル)。1球ストレート(ファウル)を挟んだ後、最後はスライダーでファーストへのファウルフライに仕留めた。
この打席で捕手の高城俊人は2球ボールが続いた時点でマウンドに行っている。
「三好(匠、投手)は抑えようとしすぎて力が入っていた。1球目も浮いてたんでタイムを取ろうと思ったんですけど、もう1球見ようと思ったら次も浮いていた。球持ちも悪いし、1、2、3のテンポで投げていたので、『力でいくんじゃなくて、長く持て』と言いに行きました」(高城)
3球目も高めに浮くボール。明らかにいつもの三好ではなかった。4球目は「待て」のサインが出ていたため、菅沼は見送る。バッテリーも「振らんから大丈夫と言いました」(高城)と落ち着いてひとつストライクを入れた。
5球目を見逃したことで立場が入れ替わった
「三好は腕が長くて球持ちがいいから137、138キロでも詰まらせられる。監督からも『回転数を多く、切れのある球を投げれば大丈夫』と言われていたし、ポジショニングも指示があったので自信を持って要求できました」
一方の菅沼はカウント3−1となり、こう思っていた。
「このカウントではストレートも変化球もあるというデータがあった。変化球もあるかなと思っていました」
100パーセント、ストレートと割り切れなかった気持ちが、積極的な気持ちを消してしまっていた。結果的に、この1球がバッテリーに勇気を与える。
「(カウント3−0から)2球見てきたので、フォアボールを狙う気持ちがあるのかなと。振らないで打つ(1回のスイングでとらえる)のは難しいですから。3−2からはボールでも振っていた。何でも振ってくるからボールでも振ると思ってスライダーを要求しました」(高城)
ピンチで苦しいはずのバッテリーが、逆に上から見下ろせるように変わっていた。
強打の日大三高だからこそ振ってほしかった1球
「あそこは振ってほしかったですねぇ。(ストレート、変化球の)何を待ってるとかじゃなくて、あいつの振る高さでしたから」
甘い球を見逃さずにフルスイングする。これが日大三高の野球。だから小倉監督はあえてそう言うのだ。昨年の大会中も三木有造コーチはこう言っていた。
「ウチは『3ボールでもいけ、ストライクなら振れ』です。そのカウントからは甘い球が来るじゃないですか。練習でも『ボール球でもタイミングが合ったら振れ』と言っています。振らないと怖さはないですし、振るからフォアボールもある。2ストライクからでも、振って三振ならしょうがないですから」
今大会も準々決勝の加古川北高戦で3回2死三塁のカウント3−0から高山俊がセンターへ三塁打を放っている。たとえ3−0からでも、フルスイングしていく。それが日大三高打線の魅力でもあり、強さの秘密でもある。
だが、今日はそれができなかった。
「真っすぐに張っていた方が良かった。打たされたことに悔いが残ります」(菅沼)
強打のチームだからこそ振ってほしかった1球。日大三高だからこそ振ってほしかった1球。やるべきことができないと、やはり結果はついてこない。昨春準優勝の優勝候補にとって惜しまれる1球だった。
<了>
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