本塁打を量産する九州国際大付の秘密=タジケンのセンバツリポート2011 第9日

田尻賢誉

内角に投げさせず、5安打を放った高城

北海高戦で値千金の勝ち越し本塁打を放った九州国際大付高・花田 【写真は共同】

【九州国際大付高 5−4 北海高】

 内角に投げられない。
 九州国際大付高・高城俊人に対し、北海高バッテリーが投じた球は20球すべてが真ん中から外寄り。捕手・玉木昴太が要求したのは、全球が外角球だった。
 第3打席。1ボール2ストライクと追い込んだ後、4球目と5球目は外角スライダーで一塁側へのファウル。徐々に合わせてきていたが、6球目も外角スライダーを続けてライト前に運ばれた。第4打席はボテボテの内野安打だったものの、高城には5安打を許した。

「玉熊(将一)は右のインコースは得意じゃないんです。抜けることが多いので。甘くなったり、デッドボールになったりするのが嫌だったので、インコースは要求しづらかった。逃げの配球になってしまいました」(玉木)

 内角に要求しづらかったのにはもうひとつ理由がある。
 それは、高城がベース寄りぎりぎりに立っていたこと。あの位置に立たれると、内角に自信のない投手が投げ切るのは難しい。初戦で本塁打を放っている高校通算22本塁打のスラッガーに対し、「少しでも甘く入ったらやられる」という思いから、どうしても安全策の外角攻めを選択せざるをえなかった。

立ち位置とスタンスを自在に変える九州国際大付

 実は、この立ち位置とスタンスが九州国際大付高打線の秘密でもある。

 この日はスクエア(両足をホームに平行に置く)で構えていた高城だが、初戦で本塁打を放った打席では、ややクロス(前足をホーム寄りに置く)気味にスタンスをとっていた。これは、相手が左投手だったため。右投手に代わったあとはスクエアに戻している。右投げと左投げ、投手のタイプによって立ち位置やスタンスを変えているのだ。右打者の時吉誠也は言う。
「左ピッチャーのときはクロスにして、入ってくる球を狙おうという指示でした」
 高城が打ったのは、外角高めに甘く入ってきたスライダーだった。

 一方、左打者は北海高戦ではベースからスパイク半足分離れて立っていた。さらに、ややオープン(前足をホームから離して置く)気味に構えていた。この立ち位置とスタンスは毎試合、若生正広監督から指示が出る。
「(玉熊に対しては)シュート回転して逃げるボールとスライダーが持ち味なので、少し離れて、開き気味に見て、真っすぐにステップするように言われました」(龍幸之介)

 8回、花田駿が放った勝ち越しの本塁打は、外寄りの変化球が外れた後に外角を狙ったストレートが真ん中に入ってきたのをとらえたもの。この試合、花田は4球きた変化球に1球も手を出していない。ベースからやや離れ、逃げていくチェンジアップやシュート回転のストレートを見極めやすくし、甘く入ってきたストレートを確実にたたく打撃を徹底できていた。

強力打線が準決勝で日大三・吉永に挑む

 相手投手が代わるたびにスタンスも変更するが、そこに戸惑いはない。1回戦でスクエアのスタンスからライトスタンドにたたき込んだ龍は言う。
「(指示があると)やりやすいですね。指示してくれることで迷いなく振れます」

 昨秋の公式戦11試合で10本塁打を記録している強打の九州国際大付高。もともと力があるだけに、迷いなく振ることができれば結果は出やすくなる。その成果が、甲子園での3試合5本塁打。2番から6番までの5人が本塁打を放つという驚異の打棒を生んでいる。

 豪快な本塁打に目を奪われがちな一方で、細かい工夫もしている九州国際大付高。準決勝で大会屈指の好投手・日大三高の吉永健太朗相手にどんな立ち位置、スタンスで臨むのか。対決が楽しみだ。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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