投手陣のカギを握るチェンジアップ=タジケンのセンバツリポート2011 第6日
九州国際大付・三好の“伝家の宝刀”
チェンジアップを武器とする投手が今大会では目立つ。九州国際大付のエース・三好(写真)もその1人だ。 【写真は共同】
狙い通り、だった。
第2試合の初回、日本文理の攻撃は1死二塁。打席に2009年夏の準優勝メンバーである三番の湯本翔太を迎え、九州国際大付の捕手・高城俊人はこう考えていた。
「湯本は相手の中心。どうにかして抑えたい」
カウント2ボールから2球内角のストレートを続けて2−2とした後の5球目。決め球に選んだのはチェンジアップだった。
「ビデオを見たら、湯本はインコースが見えていなかったんです。自分は(打者の)ステップを見ながら配球するんですけど、インコースのストレート2つで開いたのが分かった。湯本はリーチが長いので、外は当ててくる。緩い球を投げれば合わせにくるかなと思いました」
高城の要求通り、エース・三好匠が中学時代から武器にする伝家の宝刀は外角に決まる。湯本はフルスイングできず、バットは力なく空を斬った。三好―高城のバッテリーは湯本を第3打席でもストレートで追い込み、最後は外角に落ちるチェンジアップで空振り三振に仕留めた。常時140キロ前後で最速145キロをマークしたストレートと120キロ前後のチェンジアップ。20キロの緩急の差に湯本はついていけなかった。
「キレもよく、一瞬ストレートかと思うぐらいいいボールでした。腕の振りもまっすぐのときと変わらないし、あそこまでのチェンジアップを投げるピッチャーは今までいませんでした」(湯本)
練習で準優勝時のエース・伊藤直輝(東北福祉大)にチェンジアップを投げてもらって目慣らしをしたが、対応するのは難しかった。
「三好は(ストレート主体で)力強いピッチングができる。左バッターには内を突いて、意識させておいて外にチェンジアップというのが使えますね」(高城)
北海・玉熊も投球のアクセントに
「まっすぐに似た感じでちょっとスピードが落ちるぐらいです。そんなに変化はしません。でも、低めに来ていました」
ストレートのように見えて、打ちにいくと微妙に沈む。その分だけ、とらえきれない。この球で打ち取れなくても、この球があると見せることで考えさせる。低めにさえ投げておけばボールになってもOKという使い方だ。これを随所に見せることによって、玉熊は5人いる左打者を3安打に抑えた。
「ちょっとずらして芯を外す、ゴロを打たす球ですね。それが左バッターにはうまく使えています」(捕手・玉木昴太)
実は、これはこの大会からの新球種。カーブとスライダーだけで臨んだ昨秋の明治神宮大会で、日大三高打線に通用しなかったため、冬の間に練習した。
「カーブとスライダーだけだと軌道が一緒なので、左バッターに対応するために練習させました。チェンジアップがダメならシュートをと思っていたんですが、玉熊にはチェンジアップがうまくはまったみたいですね」(平川敦監督)
チェンジアップがトレンドの球種
「小中学生がもし変化球を投げるならチェンジアップ。握りが違うだけで、投げ方がまっすぐと一緒だから、体に負担がこないし、すぐに覚えられる」
近年はこの考え方が日本でも広がってきた。今大会は波佐見の松田遼馬、光星学院の秋田教良、静清の野村亮介ら140キロ台の速球を持つ投手がチェンジアップを有効に使っているほか、日大三の吉永健太朗もチェンジアップに近いシンカーを操る。大会屈指の左腕・大垣日大の葛西侑也もオフにチェンジアップを習得。投球の幅が広がった。
2008年には優勝した沖縄尚学の東浜巨(亜大)がツーシーム、準優勝した聖望学園の大塚椋司(JX−ENEOS)がカットボールと手元で動く変化球が流行になったが、今年の流行はチェンジアップ。三好のようにストレートとの緩急の差で空振りを奪うか。玉熊のようにストレートと見間違うぐらいの球速で打ち損じを誘うか。ストレートのスピードに関係なく、誰にでも有効な球種だけにおすすめだ。
08年のように、トレンドの球種を巧みに操る投手が上位進出を果たす予感が漂う今大会。チェンジアップを使う投手、それぞれの使い方に注目したい。
<了>
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