大ピンチの日大三高を救った主将の言葉=タジケンのセンバツリポート2011 第3日

田尻賢誉

優勝候補が陥ったピンチ「嫌な感じはありました」

優勝候補・日大三が明徳義塾を下し2回戦へ。写真は、8回裏に逆転二塁打を放った鈴木 【写真は共同】

【日大三高 6−5 明徳義塾高】

 負けパターンにハマった、かのように思われた。
 初回のけん制死に始まり、5回まで散発の3安打。得点は3連続四球でもらった1点だけ。3回途中から5回の1死目まで、5打者連続でフライアウト。4回に許した先制点はセンターが目測を誤り、2点を追加された6回にはファーストが一塁線のゴロをスルー……。昨年のセンバツ準優勝レギュラーが4人残り、今大会でも優勝候補筆頭に挙げられる日大三高だが、ズルズルいきそうな雰囲気は漂っていた。

 そう思ったのも、相手投手が日大三高打線が苦手にするタイプだったことが大きい。明徳義塾高のエース・尾松義生は、左の技巧派。左打者の外角にはもちろん、右打者の内角低めにも変化球を集め、打たせて取る。力まず、淡々と変化球を投げ続けられるタイプだ。実は、日大三高打線は伝統的に、この手のタイプに手こずることが多い。2005年夏には同じタイプの宇部商高の好永貴雄に敗れ、2年前の夏の初戦で当たった徳島北高の阪本寛典にも3安打に抑えられている。

 この日も、5回まで15アウトのうち、フライアウトが6つ。大振りして打ち上げる打撃が目についた。5つのゴロアウトも、打たされ、引っかけた当たりが目立ち(そのほかは三振1、けん制死1、犠打2)、尾松にハマりかけていた。
「初戦にはつきものだと思うんですけど、嫌な感じはありました」(4番・横尾俊建)

「いつも通り、逆方向に強い打球を意識していこうぜ」

 ところが、1対4とリードされた6回裏の攻撃から日大三高打線が急変する。
 先頭の畔上翔が外角の変化球を逆らわずセンター前にはじき返すと、横尾のレフト前安打、犠打で1死二、三塁。ここで明徳義塾高は前進守備を敷かず、通常の守備位置を選択。「1点OK」の姿勢を取った。ここで清水弘毅はカウント2ストライクと追い込まれながら、逆方向を意識した打撃でショートゴロ。三塁走者を生還させた。
「監督さんから『ヒットじゃなくてもいい。何でもいいから1点取れ』と言われていたので、逆方向を意識し、ピッチャーの足元を狙って打ちました」(清水)

 この後に菅沼賢一の二塁打で1点差に迫ると、7回には無死一塁から高山俊が逆方向へレフト前安打。畔上も外角の変化球を技ありの巧打でレフト線に落として同点に追いついた。
「左ピッチャーは開いちゃうとダメなので、逆方向を意識しました。あのコースは振っていくと(ファウルに)切れちゃうので、1、2、3で待って、バットを落とすだけでしたね」(畔上)
 こういう打撃ができるようになると、もともと力はある日大三高打線だけに結果が出る。1点勝ち越された直後の8回裏には、菅沼、鈴木の右打者2人が強引に引っ張らず、自分のポイントまで待ってレフトへ短長打を放ち、逆転に成功した。

 これまでならハマりそうな展開で、なぜ途中で気持ちを切り替え、技術面で修正できたのか。これはキャプテンの畔上の言葉がきっかけだった。打撃に自信を持つがゆえに、大振りになっていた前半を終え、主将は選手間のミーティングで活を入れた。
「バッティングに自信持つのはいいけど、自分を見失わずにやろう。まだ春なんだし、練習通りのことをやって負けてもまた夏くればいい。いつも通り、逆方向に強い打球を意識していこうぜ」
 この言葉に加え、自らが打席でそれを実践してみせた。これで周りの選手の意識も変わった。
「(中心で)打つべきヤツが、そういう打球を打った。あれがあって、自分も大きいのは狙わず、自分の打球を心がけました」(横尾)
 リードされても、焦らなかった。やるべきことを再確認し、実践した。それが終盤での逆転劇につながった。

“ゲンのいい白星”で波に乗った日大三高

「日大三高の野球はスクイズも盗塁もエンドランも警戒しないからやりやすいんですよ。ピッチャー(吉永健太朗)も、右には真っすぐとスライダーだけ。チェンジアップは左にだけだし、分かりやすい。何もしないで、ドーンと構えて横綱相撲で逆転するんだから、相手は力があるとしかいいようがない。勝たないかん試合でしたけどね……」
 甲子園初戦20連勝の記録をストップさせられた明徳義塾高・馬淵史郎監督はそうボヤいた。ちなみに、明徳が昨年まで春夏合計25度の出場中、唯一初戦で負けたのは馬淵監督がコーチだった1987年のセンバツ。このときの相手は小倉監督の率いた関東一高だった。この大会、関東一高は準優勝している。苦戦をものにするとともに、小倉監督にとってゲンのいい白星で、日大三高が波に乗った。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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