C大阪、初のACL挑戦に立ちはだかる壁=今、自分がいる場所で、やるべきことを

小田尚史

ACL初のアウエー戦直前に起きた未曾有の大災害

前線に新戦力が多い今季、まだ攻撃陣の連係がかみ合わず、乾(右)の良さも生きていない 【Getty Images】

 11日、東北地方を中心に東日本を襲った未曾有の大地震と大津波。今もなお、被害の全容はつかめておらず、深刻な原発問題を含む2次、3次災害との戦いという緊張感を強いられる日々が続いている。この国難を前に、Jリーグも早々に3月中の全試合延期を発表。4月以降のリーグ戦再開も不透明なままだ。この状況下で、C大阪はクラブ史上初となるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のアウエーでの戦い、山東魯能戦を16日に迎えることとなった。

 震災翌日。予定されていたJリーグ第2節・柏レイソル戦が延期となったC大阪は、練習場にて急きょ紅白戦を行った。公式戦同様の負荷をかけるため、その内容は激しく、45分×2本を終えた後にはグラウンドに倒れ込む選手もいた。チームキャプテンであり、ディフェンスラインを統率する茂庭照幸も、しばしの間、グラウンドで大の字になり、空を見上げていた。

 帰宅前、東北地方が大災害に見舞われた現状および山東魯能戦に向けてのコメントを求めると、「う〜ん。難しいですね」と普段は冗舌な男がポツリとつぶやいた。しかし、一呼吸置くと、「被害状況の大きさを考えれば、『被災地の方のために戦います』と軽々しくは言えないですよね。でも、おれたちは夢や勇気を与える職業に就いていると思うんです。それは今回に限ったことではなく、普段のJリーグでも1試合1試合、おれたちは応援してくれる人たちに夢と希望を与えることができると思っています。だから、次の試合もいつも通り、プロとしての責任を持って一生懸命戦います」という答えが返ってきた。

 それは、昨季C大阪で復活を遂げた男から発せられた、取って付けたようなものではない、心からの言葉だった。また、図らずも日本を代表して戦う立場に置かれたC大阪イレブンの気持ちを代弁してもいた。山東魯能戦は、メンタルコンディションのもっていき方が難しい試合となった。関西圏は震災の被害を直接受けたわけではないが、家族、親戚、知人、友人の安否を気遣う選手もいた。また、テレビに映る猛威をふるった大津波のシーンなど、およそ現実に起きた出来事とは思えない惨状に対し、誰もが心理的な動揺を抑えることに、目の前の一戦に集中することに、必死だった。

フィットしない攻撃陣、完敗の山東魯能戦

 C大阪は今季、クラブとして初のACLでの戦いに挑んでいる。初戦は3月2日、ホーム・長居に、アレマ・インドネシアを迎える形でスタートした。グループリーグで最も格下と見られる相手とあって、C大阪がホームで大量得点を挙げると思われた。だが、そんな大方の予想に反し、チームは低調なパフォーマンスで大苦戦を強いられる。特に、乾貴士をのぞいて昨季と総入れ替えとなった前線4人の連係が思うようにいかない場面が目立った。

 2得点を奪い、勝利の立役者となったホドリゴ・ピンパォンのプレーも、試合全体を通して見れば、手放しで賞賛できる内容ではなかった。そもそも、この試合でも見せたサイドからのクロスに点で合わせるポジショニングの良さやシュートセンス、スペースがある状態で前向きにボールを持った際に有効なスピードなど、ピンパォンの持ち味を生かすために、1トップは最適なのか。そんな根本的な疑問も浮かび上がる。

 昨シーズンの来日当初、同じ問題に直面した現G大阪のアドリアーノは、屈強なフィジカルを備えていたため、それでも単独で持ち込む強引なドリブル突破で局面を打開した。しかし、フィジカル的にそこまで恵まれていないピンパォンは、相手DFの標的としてつぶされる場面が目立つ。ピンパォンを3シャドーが素早くフォローし、ワンタッチ、ツータッチでお互いが絡むシーンではチャンスが生まれており、1トップ3シャドーの今後の熟成に期待がかかる。だが、ピンパォンの適正ポジションは、2トップのセカンドストライカーのようにも思われる。
 また、キム・ボギョンはキープ力と正確なキック、ドリブル突破も兼ね備える万能型のMFだが、彼個人の能力とは別に、今のところ、周りとのテンポが一呼吸ずれる場面が多い。シンプルなパス交換と細かなドリブルで、ここ数年のC大阪の攻撃を形作っていた乾がゲーム中に生きてこないことも問題だ。

 攻撃が有効に機能しなかったのは、今季のJリーグ開幕戦となったG大阪戦も同様。遠藤保仁、二川孝広の熟練したパスワークに加え、宇佐美貴史やアドリアーノの個性がフィットしつつあるG大阪の攻撃とは対照的だった。そして、冒頭に述べた山東魯能戦直前の紅白戦では、スタメン組が控え組に押されるなど、改善に向けての確固たる手応えをつかめない状態で中国に向かうこととなる。試合は前半、立て続けに2点を奪われ、最後まで決定機を作れずに0−2の完敗に終わった。

1/2ページ

著者プロフィール

1980年生まれ。兵庫県出身。漫画『キャプテン翼』の影響を受け、幼少時よりサッカーを始める。中学入学と同時にJリーグが開幕。高校時代に記者を志す。関西大学社会学部を卒業後、番組制作会社勤務などを経て、2009年シーズンよりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』のセレッソ大阪、徳島ヴォルティス担当としてサッカーライター業をスタート。2014年シーズンよりC大阪専属として、取材・執筆活動を行なっている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント