“怪物”ロナウド、走り続けた18年間=けがや病気に負けず、輝き放った不屈の精神
肥満の原因は病気、初めて明かす驚きの真実
ブラジル代表では数多くのゴールを記録し、W杯優勝も経験。しかし、そのサッカー人生はけがや病気との戦いでもあった 【Bongarts/Getty Images】
テレビに流れるCMにロナウドが出ない日はなかった。ビール、携帯電話、清涼飲料水、ナイキ……トップメーカーがこぞって彼を起用した。出っ歯ゆえか舌足らずのようなしゃべり方、愛嬌(あいきょう)溢れる笑顔。ブラジル人はロナウドが大好きだった。
そんなロナウドも、2006年のW杯・ドイツ大会からずっと肥満問題で批判され続けていた。大統領にまで「太っちょ」と揶揄(やゆ)されたその体型については、日ごろの不摂生が指摘されていた。だが、ロナウドは引退会見で驚きの真実を明らかにした。
「4年前、ミランにいたときに、検査で甲状腺の異常が発見された。甲状腺機能低下症(ホルモン異常で甲状腺のホルモン分泌が減り、新陳代謝が減り肥満になる)と診断されたが、治療に使うホルモン薬を飲めば、ドーピングに違反してしまうため、飲むことができなかった。この病気が原因で肥満になった。肥満についていろいろ批判をされてきたが、ずっとこれは秘密にしてきて、今、初めて明らかにすることにした。コリンチャンスの関係者は病気のことを知っていた。僕は、どうしてもサッカーを続けたかったから、薬を飲まずにトレーニングすることを選んだ。僕にとってサッカーがすべてだったんだ。今まで僕を肥満だと批判してきた人たちは、これを聞いて後悔しているだろう」
ロナウドはけがだけでなく病気とも戦っていた。愛するサッカーを続けるために、文字通りボロボロになるまで戦い続けたのだ。時には心ない誹謗(ひぼう)中傷を浴びることもあっただろう。それでも彼の周りには、いつも笑顔が溢れていた。「批判が僕を強くしてくれたと思っている」とはロナウドの言葉だが、彼の不屈の精神とポジティブさが、ブラジル国民に多くの幸せを与えたのは間違いない。
ピッチを去っても話題の中心であることは変わらない
またW杯・日韓大会で“3R”を形成し、ロナウドとともに優勝を果たしたリバウドとロナウジーニョも、共にプレーした喜びを語っている。
「彼とプレーする時は、組織プレーなど考える必要がなかった。僕がどう動くかを、彼は全部分かっていたからね。僕も、彼がどんなパスを受けたいのか分かっていた。僕が共にプレーした選手の中でも最高の1人だ。ロナウドの隣でプレーができたなんて、本当に光栄だ」(リバウド)
「偉大なプレーヤーだ。彼ほどすべてをやり遂げた人はそんなにいない。さまざまな困難を乗り越え、若い選手の見本となった。ずっとあこがれていたロナウドと、何年間か一緒にプレーできた。こんな幸せはほかにない。彼は僕の永遠のヒーローであり、友達だ」(ロナウジーニョ)
そのほかにも、ジーコやジネディーヌ・ジダンら伝説的な選手や、W杯・日韓大会でブラジル代表を率いたルイス・フェリペ・スコラーリ監督もロナウドの引退を惜しんだ。
もちろん、選手を辞めたからといってロナウドの人生が終わるわけではない。今後は、2014年のW杯・ブラジル大会に向けて、コリンチャンスのアンバサダー(サンパウロでは、コリンチャンスが新設するスタジアムが会場になる予定)として活動する。スポーツ&エンターテインメントマーケティングビジネスを行う“9ine”という自分の会社もすでに設立。さらには、彼の別名ともいえる“フェノメノ”(怪物)を掲げた「クリアンド・フェノメノス基金」を立ち上げ、貧しい子供たちにチャンスを与えたいという。
引退会見から2日後には、サンパウロ州W杯招致委員会がロナウドを委員会メンバーとして招へいした。ピッチを去っても、この怪物が話題の中心であることに変わりはない。
サッカー選手としての最初の死を経て伝説となったロナウド。彼と同じ時代を生き、彼のプレーをじかに見ることができた幸せを、この先もずっとかみしめたいと思う。
<了>