智弁和歌山・道端が名将と挑む全国制覇=第83回選抜高校野球・直前リポート

松倉雄太

名将・高嶋監督が期待する捕手・道端

4季連続の甲子園出場となる智弁和歌山高の道端 【松倉雄太】

 2年連続10回目の選抜出場を決めた智弁和歌山高(和歌山)。チームを率いる高嶋仁監督は昨春の選抜で甲子園通算59勝目を挙げ、歴代の監督として単独トップに立った。この間、春1回、夏2回の全国制覇を果たした名将。一昨年には岡田俊哉(現・中日)、昨年は西川遥輝(現・北海道日本ハム)と2年続けてプロにも選手を輩出している。

 その名将がことし、大きな期待を持って育ててきたのが道端俊輔捕手(新3年)。控え捕手だった1年夏は代打で1試合に出場。昨年は正捕手として春夏とマスクをかぶった。この春で4季連続の甲子園となる。
 これまでを振り返った道端は「まだ出ているだけ。自分がマスクをかぶった試合ではこれまで1勝しかしていない」と、ことしこそ甲子園での飛躍を誓う。

容赦ないゲキは期待の表れ

智弁和歌山高の正捕手・道端にゲキを飛ばす高嶋監督(右) 【松倉雄太】

 高嶋監督は道端を「頭の良い選手」と評する。これまで、試合のたびに指揮官の容赦ないゲキが飛んでいたのがその期待の表れだ。その内容が試合を経るごとに高度なものになってきたことを道端は実感している。
「1年の頃に比べると、おれはこう考えているとか、相手の監督がどう攻めてくるか考えろというようなことを言われるようになりましたね。今では相手の監督と勝負しているみたい」
 昨春、初戦を突破したものの、優勝した興南高(沖縄)との2回戦ではまさに相手ベンチとの勝負に敗れたような感覚だった。

 昨秋の近畿大会でもこんなことがあった。準決勝の天理高(奈良)戦。1点リードの9回裏、走者を二塁に背負った場面。天理高ベンチは三盗を仕掛けてきた。焦った道端は痛恨の捕逸。走者はそのまま一気に生還し、試合は振り出しに戻った。勝ちパターンを追いつかれて、消沈したバッテリーは、天理高の勢いを止められずにサヨナラ負けを喫した。
「何をやっとるんや!」
 試合後のベンチ裏では高嶋監督の怒号が飛んでいた。この怒号は結果だけではなく、勝負する球に至るまでどういった配球をしたかというのも意味する。
「頭の良い捕手が陥りやすい部分なんです。どうしても安全策に走るから相手も読みやすい。その前に1球挟むとかすれば、先に安全策が生きてくる。それを覚えていかないといけない」と高嶋監督は怒った意味を話してくれた。

道端に対する高嶋監督の愛情

 高嶋監督の捕手に対する愛情を、道端はこう話す。
「高嶋先生は試合の時、相手の捕手を見られるんです。それで、どう攻撃するかを考える。だからこそ逆に智弁の捕手には厳しい。捕手がしっかりしないと、ゲームは変わってしまいますから」

 道端の言葉を聞いて思い出すのが、夏ベスト4に進出した2006年の捕手・橋本良平(現・阪神)。橋本も入学直後から捕手として多くの試合に出場した。しかし2年生時には、捕手として壁にぶつかっていた橋本を高嶋監督は一塁に回している。最上級生になり捕手に戻った橋本は、3人の本格派投手を巧みにリードして、夏の飛躍につなげた。

「次はここ(コース)で、ストライクが欲しい」
「ちょっと内に入った」
 智弁和歌山高グラウンドのライト後方にあるブルペンでは、大きな声が響く。声の主は、常に試合を想定した配球をブルペンから心がける道端だ。ことしのチームはタイプの違う3人の投手を中心に計7人の投手を擁する。カギになる継投のタイミングも、球を受ける道端の感触は欠かせない。

「彼ならやってくれる」と語る指揮官の愛情もいよいよ最後の年に突入した。
「ことしは投手が良いので」と取材の際、何度も口にする道端。それを見守る名将との呼吸が一致すれば、久々の全国制覇を狙えるだけの力に変わる。選抜、そして智弁和歌山高の選手として初めての5季連続出場を目指す夏へ。向上心の塊・道端の捕手修業はこれからも続く。

<了>
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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