“新生”錦織圭、手にした勝ち星と露呈した課題=全豪テニス

内田暁

フィジカルと守備力、課題が明確になった敗戦

1、2回戦は新たなプレースタイルで勝利をもぎとったが、3回戦はベルダスコに敗戦。新たな課題が露呈した 【写真:アフロ】

 3回戦で当たった、世界ランク9位のフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)との一戦は、逆に今後の課題が浮き彫りなった試合だったろう。「今日は、自分から攻めていこう、そうじゃないと決められるという思いが強かった」と試合後に錦織は明かしたが、確かにこの日の錦織は早めに仕掛け、そしてミスを重ねるという、以前の負けパターンが姿を表した。

「あの雰囲気に飲まれ、完全に緊張してしまった」という立ち上がりは動きが固く、その焦りがさらにミスを誘発する。「相手は、前の試合で5セット戦っているのに、あれだけ動ける。トレーニングにしてもテニスにしても、まだまだ自分は足りないんだと痛感した」と悔しさを隠さぬ錦織だが、その相手のベルダスコは、アガシのトレーナーとして知られるギル・レイアスの元で肉体改造に励み、大躍進した経緯を持つ。これは、ギルバートのテニスを実践するには、まずは優れたフィジカルが不可欠であることの示唆でもある。そのことは、ボッティーニコーチの「今、最も重視しているのがフィジカルと、守備の技術の向上」という言葉からも明らかだ。
 
 思えば、昨年の全豪準優勝者であり、今大会の優勝候補の一人であるアンディ・マレー(英国)も、ギルバートの元でフィジカルと守備力を上げ、同時にランキングもわずか1年の間に36位から8位まで上昇させた、ギルバート・イズムの体現者である。
 そのマレーはギルバートについて、「ブラッド(ギルバート)は、戦術に優れた策士だ。彼からは試合の勝ち方を学んだ。仮にすばらしいプレーでなくても、勝つに十分な手段を教えてくれる。(錦織)圭にもそれは役立つはずだ」と、錦織にエールを送った。


 標榜(ひょうぼう)するテニスを実践して得た2つの勝ち星と、課題を突きつけられた敗戦。
 一年のスタートとしては十分過ぎるほどの手土産を抱え、錦織は新スタイル確立への第一歩を踏み出した。

<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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