悔い残る敗戦、それでも彼らのサッカー人生は続く=<3回戦 前橋育英(群馬) 1(1PK3)1 流通経済大柏(千葉)>
神様に見放されたPK戦
PK戦で1人目のキッカーを務めた小島(右)は痛恨の失敗。前橋育英は中心選手3人が外した 【たかすつとむ】
先制ゴールは早い時間に生まれた。7分、流通経済大柏・宮本拓弥のシュートのこぼれ球を進藤誠司が詰めて先制する。先制点で勢いに乗る流通経済大柏は、自慢のハイプレスで前橋育英に自由を与えず、ボールを奪うと素早く前線に展開。守備では浦和レッズ加入内定の小島にマンマークをつけ、パスの出どころを封じにかかった。小島の行くところに、ボランチの熊田陽樹が影のようについて回る。「勝負にこだわる」がモットーの流通経済大柏・本田裕一郎監督らしい策である。
前橋育英は流通経済大柏のハードな寄せに対し、素早くパスを回すことで反撃を試みるが、小島が「前半はボールが落ち着かなかった」と語ったように、効果的な形は作れず。流通経済大柏ペースで前半を終えた。
後半に入ると、立ち上がりから前橋育英が攻勢を仕掛ける。そして7分、ラッキーな形でゴールが生まれた。流通経済大柏ゴール前に上がったボールがバウンド。処理に当たる流通経済大柏の選手3人に対し、前橋育英は小牟田ひとり。小牟田は相手に囲まれながらも素早く反応し、右足でゴールに押し込んだ。
この1点が前橋育英に勇気を与えた。押され気味だった中盤での主導権争いを、相手のお株を奪う出足で制すると、10分、12分と立て続けにチャンスを作る。一気に畳み掛け、逆転ゴールを奪いたい前橋育英だが、流通経済大柏のセンターバック増田繁人(アルビレックス新潟加入内定)を中心とする壁を破ることができない。
前橋育英・山田耕介監督が「同点に追いついた後の時間帯でゴールが奪えていれば……」と悔やんだ猛攻も実らず、タイムアップ。勝敗はPK戦に委ねられることに。
PK戦において、注目選手や試合で活躍した選手は神様に見放されやすい。これはサッカーの不思議の1つである。前橋育英はキャプテンの小島、同点ゴールの小牟田、小島とボランチのコンビを組み、八面六臂(ろっぴ)の活躍を見せた湯川の3人がそろって失敗。この瞬間、前橋育英の選手権は終焉(しゅうえん)を迎えた。
胸に去来するさまざまな思いをのみ込んで
「高校に来て良かったと思う」と小島。選手権に別れを告げ、これからはプロの道を歩み出す 【たかすつとむ】
「選手権は全力を出し切った大会。悔しい負け方をしたので悔いは残りますが、みんなと戦えて楽しかった」
小島にとって、選手権は身近にして大きな目標だった。父・兄共に出場し、兄は優勝も経験している。小島自身も国立のピッチに立つことを目標に、前橋育英の門をたたいた。
「高校でサッカーをすることで、人間的に成長することができました。高校に来て良かったと思う。ユースと高校では上下関係も違うと思うし、選手権という注目度の高い大会に出ることもできました。自分がここまでになれたのも、選手権があったからだと思います」(小島)
唯一の心残りは、選手権で良い思いができなかったこと。しかし、彼のサッカー人生はこれからも続く。それはもちろん小島だけでなく、チームメートも、共に戦ったライバルも同じ。
例えばFWの小牟田は大学に進学し、プロになる夢を追いかける。この日、ピッチでしのぎを削った流通経済大柏の吉田、増田はJ1クラブへの加入が内定している。試合後、増田には「優勝してくれ。プロでも一緒に頑張ろう」と声を掛けた。小牟田には4年後、「敵としてでも味方としてでも、プロで会えればうれしい」とエールを送る。
高校3年間の最大の目標にして、通過点でもある選手権が終わった。胸に去来するさまざまな思いをのみ込み、小島秀仁はプロサッカー選手への道を歩み出す。
<了>
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