駒澤大高、頼れる守護神とともに突き進む=<2回戦 星稜(石川) 0(2PK4)0 駒澤大高(東京B)>

鈴木智之

歓喜の輪の中心に背番号1

PK戦で勝利し、駆け出す駒澤大高イレブン。初出場ながら16強に駒を進めた 【岩本勝暁】

 初戦の大津戦に続き、2試合連続で歓喜の輪の中心にいたのは背番号1だった。駒澤大高と星稜の試合は80分を戦ってもゴールが決まらず、決着はPK戦に委ねられた。
 そこで躍動したのが、駒澤大GK岸谷紀久だった。星稜の選手がゴールを外し、迎えた4本目。相手の蹴るコースを読み切り、左へ反応。伸ばした手がボールをとらえ、直後、大きな歓声がスタジアムを包み込んだ。

 実は、勝利の立役者はその前夜、苦悩と戦っていた。
「昨日の練習ですごく調子が悪かったんです。大津戦で良いプレーをした(PKを止めた)ことで、スキが生まれたのか……。自分的には普段と同じように、試合後もしっかり体のケアをしたんですけど……」(岸谷)

 リズムを崩していたのは、岸谷だけではなかった。初出場ながら、国立競技場で選手権の常連・大津を撃破したことで、チームに安堵(あんど)とともにわずかな緩みが生まれていた。そこで、大野祥司監督のゲキが飛んだ。
「この雰囲気では勝てない。戦える状態のやつがいないじゃないか」

 この一言で、岸谷は我に返った。
「大野先生に言われたことで、気づくことができました。昨日の夜は心を落ち着けて、今までやってきたことを思い出して、自分のできることをやろうと。そこで自分をコントロールできたから、結果としていいプレーにつながったのかなと思います」

 岸谷を中心としたディフェンスは80分間、星稜の攻撃をシャットアウト。PK戦ではスタンドの大応援をバックに4人全員が成功。守っては相手のキックを読み切り、PK戦4−2で勝利を収めた。
「ゴールの枠をそれた3本目は、自分が止めたのではなく、応援の声がすごくて、スタンドが止めてくれたような感じでした。4本目はみんなの声に勇気づけられて止めることができました。みんなに感謝したいです」(岸谷)

ベスト8を懸けた一戦で恩師と再会

PK戦でシュートを防ぐ駒澤大高のGK岸谷。2試合連続の好セーブで勝利をもたらした 【岩本勝暁】

 岸谷は事前に資料が手に入らず、星稜のキッカーがどちらに蹴るか、情報のない状態でPK戦に臨んだという。緊張を感じる中、GKコーチの園部大介に声を掛けられた。「自分を信じてやれば大丈夫だから。おれが言うことは何もない」。園部は、岸谷が「本当にすごいコーチで、多くのことを学びたくて、いろいろと質問しています」と全幅の信頼を寄せる存在だ。

 責任と重圧を感じながらゴールに立つ岸谷を、園部は落ち着いた表情で見守っていた。「PK戦に入る前、岸谷はいい顔をしていたので、やってくれると思っていました。大津戦に続いて、流れが来ていますよね。今日は慌てることなく、的確なプレーができていました。真面目に練習してきたことが実を結んだのだと思います」(園部)

 守護神の活躍でベスト8に王手をかけた駒澤大高。次戦の相手は昨年の優勝校、山梨学院大附である。普段から幾度となく、練習試合で顔を合わせている相手でもある。岸谷自身も、山梨学院大附には不思議な縁を感じている。山梨学院大附の湯浅征二郎GKコーチは、中学時代の恩師なのだ。

 それには岸谷も「まさかこういう形で再会するとは……」と驚きを隠せない。果たして、好セーブを連発する守護神は、自分を成長させてくれた2人のコーチの前で、どんなプレーを見せるのだろうか――。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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