崩れないスタイルで、『蹴史創新』し続ける宇和島東=<1回戦 宇和島東(愛媛) 3−0 遠野(岩手)>

安藤隆人

52年ぶりの選手権で初勝利

チームの絶対的エースストライカーである有間を中心としたカウンターで、宇和島東は今年旋風を巻き起こしてきた 【たかすつとむ】

 崩れないスタイルが、チームの歴史に新たなる1ページを刻んだ。宇和島東(愛媛)の武器は、粘り強い守備と精度の高いカウンターアタック。今年旋風を巻き起こしてきた彼らが、52年ぶりとなる高校選手権の舞台でも、自分たちのサッカーを貫徹し、初勝利を挙げた。

 今年のチームの目標は、『蹴史創新』――。
「サッカー部の新しい歴史を作っていこうという気持ちで、目標にしました」(山本光生監督)。この目標が立てられるのも、今年のチームに確かな自信があるからこそ。今年は絶対的エースストライカーの有間潤の存在が大きい。ボールキープ、ポストプレー、スルーパス、そして前線への絶妙な飛び出しと、抜群の決定力。すべてをハイクオリティーで兼ね備える彼の存在は、チームのカウンターサッカーになくてはならない絶対的なものとなっている。彼だけではなく、スペースメークがうまいFW立花嵐、左サイドの名クロッサーの梶田真司、ゲームメーカーでありながら、守備の急先鋒(せんぽう)にもなる攻守の要・中平脩人、そして頭脳的で対人プレーにも強いセンターバックの三原麻生ら、タレントが脇を固め、前評判は高かった。

 6月上旬のインターハイ(高校総体)愛媛県予選を制し、同月の中旬には、57年ぶり2度目の四国王者にも輝いた。そして、インターハイ本大会では、初戦で強豪・星稜(石川)を相手に有間のゴールで大金星を挙げると、その勢いのままに選手権予選でも有間の全試合ゴールの活躍もあり、52年ぶりの全国出場を果たした。

最後まで自分たちの持ち味を信じ切れるか

伝統校の遠野を相手に、持ち味を発揮し大会初勝利。次戦の静岡学園戦でも自分たちのサッカーを披露できるか 【たかすつとむ】

 そして2010年12月31日、彼らは大きく躍動した。52年ぶりの大舞台で、立ち上がりから伝統校の遠野(岩手)を相手に、得意のカウンターサッカーで主導権を握る。12分にはカウンターから左サイドを突破した梶田のセンタリングに飛び込んだ立花が先制ヘッドをたたき込むと、20分には直接FKからのこぼれ球を、有間が技ありのコントロールシュートをゴール左隅に流し込んだ。勢いに乗ったチームは、左サイドでDF2人を引き付けた有間が縦に走り出した梶田に絶妙なタイミングでスルーパスを送ると、梶田のピンポイントクロスを、中平がダイレクトで押し込んだ。

 3−0。前半だけで12本のシュートを放つ怒とうのアタックで一気に優勢に立つと、後半は前掛かりになった遠野に対し、「前半飛ばしすぎて、疲れてしまった」(梶田)ため、徐々に足が止まり出したが、最後の場面では必ず体を寄せて、遠野に自由を与えなかった。苦しい中でも粘り強い守備を発揮し、最後までその粘りをなくさなかった。三原と山本真也のセンターバック、中平と坂本亮介のダブルボランチがうまくブロックを形成し、遠野の攻撃をシャットアウト。

「うまい選手はいないけど、全員が集中力が高く、粘り強い性格の子たちが多い。こういうウチのいい面が出た」(山本監督)。目標通り、次々と新しい歴史を刻みながら、快進撃を続けるチームは、52年ぶりの大舞台でも自分たちの持ち味を十二分に発揮し、選手権初勝利を挙げて、さらに新しい歴史を刻んだ。

 この勢いはどこまで続くのか。次なる相手は米子北との激戦を制した静岡学園。彼らもまた、自分たちのスタイルに絶対的な自信を持っており、それを貫けるチーム。「実力ある相手にどこまで粘れるか。ウチのカウンターがどこまで通用するのか楽しみです」と山本監督が語ったように、どこまで相手に怯むことなく、最後まで自分たちの持ち味を信じ切れるか。相手よりも勝った時、宇和島東はまた新たな歴史を刻み込むだろう。

<了>
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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