王者・山梨学院大附、秘めた連覇の可能性=第89回高校サッカー選手権・注目校紹介 第1回

平野貴也

強力2トップを筆頭に破壊力十分

昨年の優勝を経験した加部。前回は負傷明けで本領発揮とはいかなかったが、今大会はエースとしてゴールが期待される 【平野貴也】

 前回大会の覇者は、2連覇の可能性を十分に秘めている。山梨学院大学附属高校は、山梨県予選5試合を計40得点という驚異的な数字で勝ち上がってきた。強力な2トップと鋭いサイドアタックが特色だ。先取点を奪えば、一気に大量得点のきっかけとするだけの爆発力を持っている。

 ヴァンフォーレ甲府の強化指定選手でもある大型ストライカーの加部未蘭(3年)は、大会屈指の注目選手。前回大会では負傷明けで途中出場に終始し、役割の面でも得点よりチェイシングが求められた。しかし、今年度は肉離れを我慢して苦しんだ高校総体後に復調。県予選決勝でも1得点と2本のおぜん立てで勝利に貢献した。

 加部は、今度こそストライカーとして全国の舞台に立つつもりでいる。「県予選の決勝の出来は、まあまあ。だいぶコンディションも良くなってきた。前回は出場したけど、守備の選手じゃない。ドリブルとか攻撃面を見てもらいたいし、もっと点を取りたい」と貪欲(どんよく)にゴールを狙う。10月にはスペインに渡りプロクラブの練習に参加。卒業後の進路が注目されている。

 そして、加部の後方に位置する2年生のシャドーストライカー白崎凌兵も要注目だ。県予選決勝で2得点を挙げても指揮官が「もっとできるので、あまり褒めたくない」と評価する潜在能力の高さには、プロスカウトも注目している。前回大会はAチーム(いわゆる1軍)の練習や試合に参加していたが、登録メンバーから漏れてスタンドから応援。まさかの落選となったが、「Aチームで試合に出て通用していたので、新チームでやっていく時に自信を持ってプレーできた」とモチベーションを取り戻して主力へ成長した。チームの基本戦術はサイドアタックだが、2トップのコンビネーションだけでも破壊力は十分だ。

 後方も軸がしっかりとしている。センターラインにはFW加部、MF宮本龍、DF関篤志(いずれも3年)と前回大会の経験者がそろう。関は「県予選の準決勝の前に監督から3人だけ呼ばれて『経験があるのとないのとでは違う。お前らが軸になれ』と言われた。自分も緊張したけど、ほかの仲間はもっと緊張しているんだと思って積極的に声を掛けるようにした」と、けん引役に指名されたことを明かし、その責務に理解を示した。

 主将を務める宮本は、前回大会で司令塔の碓井鉄平(現・駒澤大学)のサポート役に徹していたが、今回は攻撃面での役割も増えている。「昨年はテツ君に頼りきりだったけど、今年は、みんなが気持ちを楽にして、自信を持ってプレーできるように声を掛けることを心掛けている。今年は自分も少し前に出られる回数が増えたけど、いかに2トップが楽にプレーできるかを考えて、陰で支えたい。少しでもチームを助けられればいい」と、攻守にわたってチームのオーガナイズを手助けする。

前回王者ではなく1つの出場校として

前回優勝の立役者である碓井から、背番号7と主将の座を引き継いだ宮本。攻守にわたってチームを支える 【平野貴也】

 今年度は、横森巧氏が監督から総監督の座に戻り、清水エスパルスやアビスパ福岡、サガン鳥栖などJリーグのトップチームでコーチを務めたこともある吉永一明氏が新監督に就任した。ただし、吉永氏は昨年度のヘッドコーチであり、すでに現場指導の中心にいたため、チームカラーに変化はない。

 指揮官は「監督として臨むことによる心境の違い? 特にないですよ。去年も同じようなことをやっていたし、流れとしては去年から作ったものがあって、それを続けているだけ。逆に言えば、それしかよりどころはないし、自信を持ってやっていくしかない。ブレずにやっていくことが大事だと思う。昨年度もそうだったけど、また大会を通じて成長してくれればいい。欲張らずに地に足をつけてやっていきたい」と不動の構えで大会に臨む。

 前回大会は、第65回大会の東海大一(静岡=現・東海大翔洋)以来となる初出場初優勝を達成。今大会で連覇を成し遂げれば、大会史上5チーム目の快挙となる。初戦の相手は、戦後最多タイ6回の優勝記録を持つ名門・国見に決まった。

 宮本は「県予選決勝では最後に押される時間があったけど、全国では、ああいうのはすぐ失点につながる。まだまだ甘いところも見えた。初戦の国見は絶対に強いと思うし、ブロック自体がしんどい山。でも、その中で自分たちのプレーができれば、自信もつくし楽しみ。昨年度は、昨年度。今年度は、高校総体に出たけど全国大会では良い思いはしていない。先を見るよりも一試合、一試合を大事にしたい」と前回王者ではなく1つの出場校としての姿勢を強調した。

 昨年度のように勝ち上がるたびに勢いを増せば、山梨学院大附は連覇を大きく手繰り寄せることになる。勢いと謙虚さを兼ね備える前回王者がどんな戦いを見せるか楽しみだ。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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