8人制サッカー導入で日本のジュニアが変わる=スペインの7人制サッカーと比較

スペインで少年チームを指導する木村氏に、7人制と日本で導入する8人制を比較してもらった 【ジュニアサッカーを応援しよう!】

 日本のジュニアサッカー界は今、大きな転換点を迎えている――。2011年度以降、JFA(日本サッカー協会)主催の大会は、8人制サッカーが導入されることになった。そのため、来年度からはU−12年代最高峰の大会、全日本少年サッカー大会も11人制から8人制へと移行する。この少人数制サッカーには、どんな意味があるのか。育成年代では、7人制サッカーが定番のスペインを例に挙げて考えたい。
 1999年にスペインで指導者の資格を取得し、現在も地元の少年チームを指導する木村浩嗣氏(『フットボリスタ』編集長)に、JFAが採用する8人制サッカーについて、7人制と比較しながら、考察してもらった。

スペインで導入されている7人制サッカー

 日本でジュニア世代に8人制サッカーが導入されると聞いた。これは非常に良いことだと思う。
 少人数制サッカーの主な特徴は、(1)ボールに触れられる機会が多い、(2)ゴールチャンスとピンチが多い、(3)攻守の切り替えが速い、の3つ。要は、スペースも時間もないので、もたもたしている暇がなく、常に全員が攻め、守っていることが要求されるということで、これらは練習でミニゲームをしたり、フットサルをプレーしたことのある人は、実感していることだと思う。ボールを触れば触るほどうまくなる子供にとっては、11人制よりもメリットが大きい。

 スペインではアレビン(10、11歳)世代まで7人制サッカーが行われている。土曜のサッカー場に足を運べば、1つのコートで2試合同時にプレーが進んでおり、その脇で次の4チームがウオーミングアップするという、大忙しの光景を目にすることができるはずだ。ご存じの通り、この国では週末に連盟主催のリーグ戦が組まれており、どんなチームでも年間30試合前後はこなせるようになっているのだが、そのせいでグラウンドはいつもフル回転状態だ。

 ルールは11人制とほぼ同じ。グラウンドの大きさは、ハーフコートより一回り小さく縦65〜50メートル×横45〜30メートル。こちらで主流の人工芝のグラウンドでは11人制サッカーのラインが白で、7人制サッカーのラインが黄色でペイントされている。土の場合は試合ごとにラインが引かれ、必要であればコーンを立ててマーキングされる。
 7人制の特別ルールとして、12メートルエリアというのがある。ゴールラインから12メートル、ペナルティーエリアの外側にもう1つエリアがあって、オフサイドルールはこの12メートルエリア内でのみ適用される。なぜ、こんな特別ルールがあるかというと、オフサイドトラップをさせず子供たちにスペースを与えるためではないかだと思う。

“小学生にオフサイドトラップ?”と驚かれるかもしれないが、11人制サッカーに移行するインファンティル(12、13歳)世代では、ラインディフェンスを上下動させる駆け引きが普通に行われている。連盟推薦のシステムは4−4−2、または4−3−3であり、後ろに1人余らせる3−5−2はほとんど目にしない。必然的に、プロと同様、4人をフラットに並べ(高さとブレークのタイミングはチームによって異なるが)、スペースをコンパクトに保つ守り方が普及している。7人制サッカーでも12メートルエリア内ではオフサイドトラップ(CKのクリアと同時にラインを上げ、相手をオフサイドにする)は当たり前になっているし、わたしのチームでもやっている。プロがすべての模範で、勝敗へのこだわりが強く、子供のサッカー、大人のサッカーという区別をしないスペインなら、特別ルールがなければオフサイドトラップ全盛で、狭いスペースで体をぶつけ合うサッカーになっていたはず。これはまずい、というわけだ。

バルセロナの育成世代は3−2−1

 7人制サッカーのシステムは3つ。目にする回数が多い順に言うと、2−3−1、3−2−1、3−1−2となる。こちらで指導をし始めてほぼ10年になるが、これまでの3−2−1ではなく今季は2−3−1を採用している。GKによるスローでのボール出しをよりスムーズにするためだ。両センターバックがペナルティーエリアの外側に開いてボールを受け、同じく開いて待っている左右MFあるいはセントラルMFとのコンビネーションで前進するオーソドックスなスタイルなのだが、これが3人DFの3−2−1ではうまくいかない。中央のセンターバックとGKのプレーエリアが重なり、センターバックがプレーに参加できない(ゴール前でボールを失うと大ピンチなので、彼へはスローできない)のだ。7人制で1人が遊んでしまうと、そのツケは11人制よりもはるかに大きい。

 2カ月使ってみた感想では、2−3−1は後方からの組み立てが容易、中盤でのパス回しの選択の幅が広い反面、両センターバックの攻撃参加が難しく、ロングパス1本で中央突破される危険がある。メリットの裏返しがデメリットで、あちらが立てばこちらが立たないというのがシステムというものだから、長所と短所を「自分のやりたいサッカー(=GKのスローから始まるパスサッカー)」という天秤(てんびん)にかけて判断すると、このシステムには非常に満足している。

 バルセロナの育成世代のシステムは3−2−1で、わたしも日本での夏の子供向けキャンプをお手伝いさせてもらったが、スローでのボール出しには苦労していた。技術レベル(特に中央のセンターバックは1対1に強いことが絶対条件)とフィジカルレベルの高い(両サイドバックには長距離の上下動が求められる)バルセロナの子供たちならこなせるのだろうし、トップチームのシステム(4−3−3)へ移行しやすいというのが選択の理由のようだ。3−2−1の最大のメリットは守備の安定、デメリットはDF3人への技術・フィジカルの要求レベルの高さだろう。3−1−2は、自分で試したことがないので想像でしか言えないが、長所は守備の安定とGKのスローを許さない点、短所は唯一のMFへの大きすぎる負担ではないか。

(文:木村浩嗣)

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