“フェイエノールト・シナリオ”を防いだ川島

中田徹

ダメージ・マネジメントができなかったリールス

大量失点を喫したGKにしては、川島の採点は良かった 【写真は共同】

 スタンダールの猛攻を受けたリールスは次々にゴールを許し、0−7と完敗した。前半の3失点はすべてリールスから見て左サイドを崩されたもの。後半の4失点は、まるで試合前のアップ代わりのシュート練習のようにやすやすと決められたものだった。これはひどいと思わざるを得ないリールスの惨状ぶりに、思わずファン・マイア監督も「PSV対フェイエノールトのシナリオ(今季、0−10でフェイエノールトは歴史的な大敗を喫している)が頭をよぎった」という。

 PSV対フェイエノールトのあと、オランダでは「試合途中でフェイエノールトの負けははっきりしたんだから、大敗のショックを避けるために“ダメージ・マネジメント”をすべきだった。フェイエノールトは若すぎて、ともかく1点を奪いにいき、PSVのカウンターを食らいすぎた。点差が開いたからこそ、フェイエノールトはコンパクトに戦うべきだった」という議論があった。
 もしかすると点差がいくら開いても最後まで点を取りにいく姿勢は正しいのだろう。しかし、やはりどこかの時点で“ダメージ・マネジメント”を施し、0−3なり0−4なりにスコアをまとめることもプロとして大事だったのではないだろうか。リールスの場合、キックオフから10分間はスタンダールと互角に戦い、チャンスも3度つかんだが、14分に失点するとその後はノーチャンス。0−7となったあと、出会い頭にPKを得たが、それもストップされた。その間、リールスは時間を稼ぐこともなく縦パスを蹴ってはボールを失い、スタンダールの波状攻撃を受けた。後半に入ると集中力が完全に切れ、ペナルティーエリアの中に守備の人数が足りていても棒立ち状態で、スタンダールの攻撃陣はたったワンフェイクの動きでフリーになった。
 もう1点も与えない――そんな気迫がリールスにまったく見られなかったのが寂しかった。

7失点のGKにしては好評価を得た川島

 日曜日はオランダもベルギーも新聞休刊日である。そのためこの試合の報道は2日後の月曜日に確かめることになる。キオスクで手に取ったのは『ガゼット・ファン・アントウェルペン』と『ヘット・ラーツテ・ニウス』の2紙だが、共に「わたしはベンチで孤独を感じた」というファン・マイア監督のコメントをフォーカスしていた。
 目に付いたのは川島に対する評価だ。スタンダールのドノフリオ監督は「われわれはコンパクトにいいプレーをした。しかし、もしわたしがマン・オブ・ザ・マッチを選ばないといけないのなら、それはリールスのキーパーだ。彼はさらに点差が広がるのを防いだ」と語っている。
 ファン・マイア監督は、「川島はそれでもチームの中でいい方だ。FWコバツはベストを尽くした。FWラジンスキは前半はスペースをうまく使っていた。MFクラーセンもよくやったかもしれない。でも、ほかの選手は皆、普段のレベルに達していなかった」と言う。

 こうして川島についた記者採点は『ガゼッタ・ファン・アントウェルペン』も『ヘット・ラーツテ・ニウス』も“6”という合格点である。ちなみにほかの選手は3〜5という数字が並んでいる。川島は確かに7失点したチームのGKであったが、6分、7分、32分、43分、54分、85分と決定機を防ぎ、“フェイエノールト・シナリオ”からチームを救ったのである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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