松坂、川上らに訪れる本当の危機=2010年日本人メジャーリーガー回顧・投手編

菊田康彦

好不調の激しさが目についた松坂 【Getty Images】

 思い起こせば日本人メジャーリーガーの歴史というのは、投手から始まっている。1964年に日本人として初めてメジャーのマウンドを踏んだ村上雅則(ジャイアンツ)、そこから31年の時を経て後に続いた野茂英雄(ドジャース)をはじめ、2001年にイチロー(マリナーズ)と新庄剛志(メッツ)がデビューするまでは、日本人メジャーといえばすべて投手だった。今年も野手5人に対し、8人の投手がメジャーでプレーしたが、合わせて39勝45敗22セーブという成績は、物足りなさが残るものだった。

今年も精彩欠いた松坂&川上

「物足りなさ」の理由はなんといっても、日本で共に沢村賞受賞経験のある松坂大輔(レッドソックス)と川上憲伸(ブレーブス)が精彩を欠いたことに尽きる。07年に5000万ドル(当時のレートで約60億円)を超える入札額でレッドソックスにポスティング移籍し、6年総額5200万ドル(約62億円)という超大型契約を結んだ松坂は、故障の影響でわずか4勝に終わった昨季の“リベンジ”が期待されていた。ところが開幕を故障者リストで迎えると、5月に復帰してからは5回持たずに7失点でKOされたかと思えば(5月1日オリオールズ戦、5月17日ヤンキース戦)、8回2死までノーヒットの快投を演じるなど(5月22日フィリーズ戦)、好不調の激しさが目についた。
 9月2日のオリオールズ戦で9勝目を挙げたものの、その後は勝ちに恵まれず、2年ぶりの2ケタ勝利はならなかった。9回あたりの与四球はチームの先発陣でワーストの4.33と制球難は解消されず、6回以上投げて自責点3以下に抑えた「クオリティー・スタート(QS)」は先発25試合中10試合にとどまった。レッドソックスとの契約は12年まで残っているものの、来季はまさに正念場のシーズンとなりそうだ。

 悪夢のようなシーズンとなったのは川上だ。投げども投げども勝ちがつかず、なんと開幕9連敗。6月26日のタイガース戦でようやく白星を手にしたものの、直後にブルペンへ配転となり、8月にはマイナー降格を告げられた。9月には再びメジャーへ昇格したが、1勝10敗、防御率5.15という不本意な成績でシーズンを終え、プレーオフの登録メンバー入りもならなかった。総額2300万ドル(約20億5000万円)の3年契約最終年を迎える来季は、なんとか本領を発揮してもらいたいところだ。

誕生! 7年ぶりの「2ケタ勝利コンビ」

メジャー3年目で初の2ケタ勝利を達成した黒田だが、来季は日本復帰か 【Getty Images】

 メジャー3年目にしてついに2ケタ勝利(11勝)をマークしたのは、ドジャースの黒田博樹だ。勝ち星だけでなく、防御率(3.39)、投球回(196回1/3)、奪三振(159)もメジャーでの自己ベスト。先発31試合中21試合がQSと、先発としての役割をキッチリと果たした。ドジャースとの3年契約は今年で満了となったが、残留要請を断ったとも伝えられており、3.60というメジャー通算防御率を手土産に、来季は胸を張っての日本復帰も考えられる。

 メジャー1年目で10勝を挙げたメッツの高橋尚成の場合は「サプライズ」といってもいいだろう。マイナー契約でのスタートながら、オープン戦で好投を続けて開幕メジャーの座をつかみ、先発にリリーフに53試合登板。12試合の先発では半数の6試合でQSを記録し、41試合の救援では防御率2.04と安定感を示した。終盤は抑えを任され、8回のセーブ機会をすべて成功させるなど、その活躍はまさにオールマイティー。黒田と合わせ、2人の日本人投手がメジャーで10勝以上を記録するのは、野茂が16勝、大家友和(当時エクスポズ、現横浜)も10勝した03年以来のことだった。

抑えに活路見いだした上原

 その高橋と巨人で同僚だったオリオールズの上原浩治は、メジャー2年目の今季も故障に泣かされながら、リリーフに活路を見いだした。左太もも裏を痛めて開幕に出遅れ、5月後半にも右ひじ痛で戦列を離れたが、6月下旬に復帰後は中継ぎで着実に結果を残した。8月には圧巻の防御率0.66をマークし、この月の途中から抑えに抜てき。シーズン終了まで守護神として15回のセーブ機会中13回を成功させ、首脳陣の信頼を得た。

 メジャー5年目のシーズンを新天地のブレーブスで迎えた斎藤隆は、中継ぎとしてチームのプレーオフ進出に貢献。来年で41歳になるが、まだまだ老け込む様子は見られない。レッドソックスの岡島秀樹は初の故障者リスト入りを経験するなど、メジャー4年目で最少の登板56試合、防御率も自己ワーストの4.50に終わった。これで日本時代から11年連続40試合以上登板、メジャーでは4年間で254試合と投げまくってきた“勤続疲労”が懸念される。2年総額300万ドル(約2億7000万円)でメッツ入りした五十嵐亮太は、開幕直後に故障者リスト入りすると、夏場には2度もマイナーへ降格されるなど、ほろ苦いメジャー1年目となった。2年目の来季は真価が問われる。

 昨季はプロ1年目でいきなりメジャーデビューしたレッドソックスの田沢純一は、今季は右ひじ手術後のリハビリに専念。07年に入札額2600万ドル(約30億円)、5年総額2000万ドル(約23億5000万円)の契約でヤンキース入りした井川慶は、昨年に続きメジャーでの登板はなし。再びメジャーのマウンドに上がる日を、首を長くして待っているファンは多いはずだが、契約最終年も「我慢の年」になってしまうのだろうか……。

<了>
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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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