大宮、過酷な残留争いを乗り切るための条件

土地将靖

“堅守”を取り戻すきっかけをつかんだ川崎戦

GKの北野は守備の改善に手応えを感じている 【写真提供:大宮アルディージャ】

 ピッチ上の部分に目を移すと、このところ気にかかるのが、失点の多さ。26節のG大阪戦では、試合開始早々に数的不利に陥ったことで大量失点を喫してしまったが、9月に入ってからの6試合で見れば、12失点。1試合平均で2失点していることになる。一方、今季の攻撃陣については、ここまで27試合で25得点。1試合平均1得点では、勝ち点を積み上げていくのは、なかなか難しいと言わざるを得ないだろう。ならば、かつては“守備の大宮”ともうたわれた堅守を取り戻さなければならない。

 大宮の守備陣については、負傷者や出場停止が多く、なかなか固定したラインナップで戦えず、いまだ成熟した連係を築けていないという側面はある。特にここ数試合で目立つのは、DFラインの裏へ簡単に縦パスを通されてしまうこと。G大阪戦や川崎戦では、遠藤保仁や中村憲剛といったスルーパスの名手に、何度となく決定機を作られた。最後尾からチームを見るGK北野貴之は、こう指摘する。

「サイドバックとセンターバックの距離が広すぎて、DF2人で守っているみたいな感じ。中央は閉めているのにサイドが絞りきれていないから、ゴールへ直結のパスを通されていた」

 ボールを奪ったら素早く攻撃に転じたい。高い位置取りからチャンスメークに絡みたい。そう考えるサイドバックと、守備第一で考えるセンターバックとの間に、文字通りの“ギャップ”があり、そこを徹底的に突かれていたのである。もっとも、川崎戦のハーフタイムでは、そこは修正できていた。

「絶対3点目を取られない、という前提。まずは守備から、というのを意識して後半に入った」(藤本主税)

 村上和弘と鈴木規郎の両サイドバックは、いつも以上に中央との連係に腐心。攻撃力に長けた川崎が相手だけに、決定機こそ作られたが後半は無失点でしのぎ、勝ち点1をもぎ取ることに成功した。川崎戦後、北野は手応えを口にしている。

「サイドバックはもっと(ポジショニングが)近くないと、コーチングも届かないし視野にも入らない。それが後半にはできた。残り7試合に生きてくる、組織としての守り方。それがつかめた」

 現在、守備陣でレギュラーと目される村上、鈴木、深谷友基、坪内秀介の4人のうち、警告3枚でいわゆる「リーチ」状態にある選手が2人いる(村上と深谷)。それでも、往時の“堅守”を取り戻すきっかけをつかんだことは何よりである。

切り札として期待される石原のゴールへの嗅覚

流れの中での得点が少ない攻撃陣にあって、気を吐く石原直樹 【写真提供:大宮アルディージャ】

“堅守”を取り戻せば、あとは得点力。イ・チョンスとラファエルほか、周囲の選手との連係も徐々に形を見せつつある。流れの中での得点が依然少ないが、その中で気を吐いているのが石原直樹だ。鈴木淳監督は「ラファエル、イ・チョンス、石原のそれぞれのよさをピッチで同時に生かしたい」と語っていたが、その最良のバランスはまだ見つけられていないようだ。この3人の中で、先発メンバーを外れることの多いのは石原だが、ゴールへの嗅覚は健在。川崎戦では、右サイドでラファエルがボールを持った瞬間にゴールへ向かって走り始め、相手DFより一瞬早くボールにさわって値千金の同点ゴールを決めた。

「ラファエルからニアに来るのは分かった」(石原)
 
 常に「先発で出たい」と強い気持ちを隠さない石原。今後、対戦相手によっては、先発起用も十分あるだろう。だが何より、石原クラスの選手がベンチに控えていることほど、相手チームにとって嫌なことはないだろう。今後も切り札としての活躍が期待される。

 一方、セットプレーから得点を奪えているのも好材料。今季25得点のうち、実に4割以上がセットプレー絡みでの得点だ。ゴールはよく「水物」と言われるが、その中でもセットプレーは計算できる要素が大きい。しっかり守ってセットプレーから1点を奪い、勝ち点3。相手にとってダメージの残る、そして何より効率のいい勝ち点の奪い方だ。

克服すべきはメンタルの弱さ

 ここ数試合、試合の立ち上がりで受け身に回ってしまい、一方的に押し込まれ失点するケースが少なくなかった大宮。鈴木監督に言わせれば「先に失点したくないという気持ちから、消極的になってしまう」。一方、先制して大量失点したG大阪戦については「先制したことで逆に大事に行き過ぎた」と分析する。要はメンタルの弱さである。「勝つんだ」という強い気持ちよりも「負けたくない」という気持ちの弱さが先に立ってしまうことが、こうしたまずい入り方を招いてしまっている。

 川崎戦は、序盤立て続けに2失点したものの、開始直後から球際でファイトし、強い気持ちを前面に押し出して戦っている姿が見えた。それが、序盤のビハインドをはね返しての同点劇につながったと考えられる。ここからの連戦は、そうした強い気持ちを持ち続けられるかどうかが、残留への大きなカギとなる。J1に生き残れるか、それとも敗れ去るのか。過酷なサバイバルレースが、まもなくスタートする。

<了>

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著者プロフィール

1967年1月28日、埼玉県生まれ。93年、現在のWEB版「J's GOAL」の前身である試合速報テレホンサービス「J's GOAL」にて、試合リポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーランスとなりライターとして本格活動を開始、大宮アルディージャに密着し週刊サッカーマガジン(ベースボール・マガジン社)ほか専門誌等に寄稿している。

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