村上、羽生がドラマチックなシニアデビュー=フィギュアスケートNHK杯

青嶋ひろの

村上佳菜子が観客を惹きつける力

シニアデビューとなったNHK杯で3位に入った村上佳菜子 【坂本清】

 シーズン開幕戦のNHK杯、村上佳菜子(中京大中京高)、羽生結弦(宮城FSC)という、現世界ジュニアチャンピオンの二人が、なかなかにドラマチックなシニアデビューを飾ってくれた。

 まず村上は、ミスのない演技でショートプログラム(以下、SP)2位。フリーではジャンプの転倒3度という不本意な出来ながらも、他の選手もミスを連発したためSPでの貯金が生きて、3位。初のグランプリシリーズで表彰台という快挙となった。
 今大会出場の女子選手でただ一人、3回転−3回転を成功、しかもSPとフリーで2回着氷(SPは回転不足判定)するなど、技術面も及第点。しかし、村上を見た人が一番気持ちを動かされたのは、あの若く溌剌(はつらつ)とした、スピード感たっぷりの演技ではないだろうか。

観客を惹きつけた村上のSPでの演技 【坂本清】

 特にSPは、はちきれんばかりの笑顔で飛びだすように滑りだし、スタートからいきなり観客の手拍子を奪ってしまう。勢いのある滑りも、ジャンプも、ステップも、シニアデビューを楽しみ、スケートを楽しむ気持ちがそのまま表れているようで、見る人も笑顔にならずにはいられない。音楽をしっかり身体の中に取り込み、自在に四肢を操る術も知っている。浅田真央や安藤美姫、鈴木明子とはまた違う種類の華、観客を惹(ひ)きつける力が、まだ15歳の高校1年生に宿っていることに、何より驚いた人は多いはずだ。

 実は村上は、すでにジュニアのころから完成された滑りを見せるスケーターで、「果たしてこの選手に、伸びしろはあるのだろうか?」とシニアデビュー前に多くの人々を心配させていた。しかし、ふたを開けてみれば、昨シーズンからジャンプは飛距離が伸び、スケートの幅、一歩一歩も大きくなり、見せる力もさらにパワーアップしている。ジャンプ技術は浅田、安藤といった天才たちに及ばないものの、現在は難度の高いルッツ−トウループの3回転−3回転も身につけつつあるという。世界のトップで戦うために、十分なものは持っているようだ。

世界中で愛される特別なスケーターに

持って生まれたスター性は可能性を感じさせる 【坂本清】

 今回はSPで2位に付けた後、フリーでミスが多く、「練習でもこれほどボロボロだったことはありません。最悪の出来」と山田満知子コーチががっかりするほど、大きな緊張感にさいなまれてしまった。しかし初めてのシニア国際戦、初めてのNHK杯、初めてのグランプリシリーズ。この大きな舞台がどんなものかを一度知ったからには、次はもう大丈夫だろう……村上佳菜子を取材していると、そんなふうに思えてくる。
 彼女の人を引き付ける力は、氷を降りても消えることはない。大会期間中、報道陣を最も沸かせたのは、フリー翌日の取材中のこと。前日の夜の様子を尋ねられると……。
「昨日は満知子先生たちとご飯を食べながら、反省会をしました。先生こんなんなって(疲れて背もたれに大きく寄りかかるしぐさをしつつ)、『ショック……。佳菜子はできると思ってたのに』なんて言って!」
 その、コーチのものまねがあまりに傑作で、大人たちは大爆笑。誰もが山田コーチの「ショック……」の様子をありありと想像してしまったほどだ。

 チャーミングで、豪胆。意識をしているのか、していないのか、大人数に囲まれても何も臆(おく)することなく、自然に記者たちを自分の味方に引きつけてしまうスター性。普段から「全然プレッシャーなんか感じていません」などと言い放つ、気持ちの強さ。リンクの中でも外でも彼女は彼女らしく、このまま輝き続けるならば、きっと世界中で愛される特別なスケーターになれるだろう。

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著者プロフィール

静岡県浜松市出身、フリーライター。02年よりフィギュアスケートを取材。昨シーズンは『フィギュアスケート 2011─2012シーズン オフィシャルガイドブック』(朝日新聞出版)、『日本女子フィギュアスケートファンブック2012』(扶桑社)、『日本男子フィギュアスケートファンブックCutting Edge2012』(スキージャーナル)などに執筆。著書に『バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート 最強男子。』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』(角川書店)などがある

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