村上、羽生がドラマチックなシニアデビュー=フィギュアスケートNHK杯
羽生のジャンパーとしてのポテンシャル
シニアデビュー戦でいきなり4回転ジャンプを決めた羽生 【坂本清】
たとえば世界屈指の4回転ジャンパーとして知られた本田武史でも、初成功は高校2年生の3月(シニアデビュー3年目)。おそらく15歳での4回転ジャンプ成功は、日本人最年少記録樹立だろう。正直にいえば、夏の練習やアイスショーでの彼を見る限り、初戦で4回転が入るとはとても思えなかった。トリプルアクセルは完ぺきだし、ジャンプのセンスは高いが、まだ練習で不完全なジャンプがいきなりシニア初戦で入るはずがない……そう思っていたことを本人に伝えると、「うん、僕も跳べるとは思っていませんでした」と笑う。
羽生は激戦の男子シングルで4位に入った 【坂本清】
また、村上同様、羽生の独特の演技にもまた、惹(ひ)きつけられた人は多いのではないだろうか。特にSPの『白鳥の湖』。しなやかで、艶(あで)やかで、ドラマチック。日本人離れ、男性離れした個性的な演技は、深く妖しい色の湖の底をのぞき込むような気分にさせてくれる。まだ完成されてはいないけれど、ここまでユニークな、彼ならではの世界を描いて見せたのが15歳の少年だということに、人々は驚いたはずだ。4回転のハードな練習を重ねながら、よくぞここまでプログラムを滑り込んで来たな、と感心しないわけにはいかない。シーズンオフには、まだまだだと思われてきたジャンプも、演技も、大舞台に合わせてここまで仕上げてくる――この力は、若くとも文句なくトップアスリートのものだ。
牙を持つ競技者
羽生は氷の上のやわらかな演技とは対照的に競技者として厳しい一面を持つ 【坂本清】
技術、アピール力、精神力――フィギュアスケートに必要な力を、まずはひととおり備えた村上佳菜子と羽生結弦。多くの人々の期待に応え、「よし、二人は間違いなく本物!」と、認めさせたデビュー戦。
2010年NHK杯は、いつか彼らが世界チャンピオンとなった日に、必ず懐かしく思い出すメモリアルな一戦となった。
<了>