ジャイアンツに砕かれたフィリーズ時代の終えん

杉浦大介

日替わりヒーローが現れたジャイアンツ

ナ・リーグ優勝決定戦のMVPには3本塁打を放ったロスが輝いた 【Getty Images】

「素晴らしいシリーズだったと思う。そしてジャイアンツが勝利を勝ち取ったんだ。それだけのことだ」
“敗軍の将”チャーリー・マニエル監督の終了後の言葉通り、過去リーグ2連覇のフィリーズが油断などから自滅したシリーズでは決してなかった。終わってみれば、ブルペンまで含めた総合的な投手力でジャイアンツが上を行き、「堂々と勝ち取った」シリーズだった。
 ティム・リンスカム、マット・ケーンの両輪はそれぞれ見事な投球を見せて存在感を誇示。さらに先発のジョナサン・サンチェスが3回で崩れても、以降に5投手をつないでしのぎ切った第6戦は今季のジャイアンツを語る上で特にシンボリックだった。打線からもコーディ・ロス(3本塁打でNLCSのMVP)、フアン・ウリベ (第4戦でサヨナラ犠飛、第6戦で決勝弾)、バスター・ポージー(第4戦で4安打)らの日替わりヒーローが誕生し、最低限の得点を確実に獲得していった。

“ベースボールの真理”を思い起こさせたシリーズ

 そしてその戦いの過程で、2010年版フィリーズはこれまで表面化していなかった意外な弱点をさらしていった。
 先発3本柱(ロイ・ハラデー、ロイ・オズワルト、コール・ハメルズ)とスタメンは確かに力強いが、控えとブルペンの薄さは顕著。今シリーズ中、代打で登場したフィリーズ打者たちは合わせて9打数0安打1四球に終わった。

 さらに頼れる救援投手が少ないという事実は、第4戦でオズワルトをスクランブル登板させてのサヨナラ負け、第6戦でのライアン・マドソンの2イニング目の被弾につながった。大舞台で安心して起用できる選手が限られていたことが、最終的にフィリーズの命取りとなった感は否めない。
「ほんのわずかな違いで、結果はまったく異なるものになっていただろう。今日は敗れたけど、おれたちはそれでも最高のチームなんだ」
 試合後、静まり返ったクラブハウスの中央で、シェーン・ビクトリーノは胸を張ってそう語った。おそらく、その言葉通りなのだろう。ただその一方で、2010年のNLCSは、はるか昔から常に不変の“ベースボールの真理”を見ているものに思い起こさせてもくれた。

「優れた群は、個を制す」。そして、「好投手は強打者を打ち破る」。
 強打フィリーズの顔役・ハワードが、今季セーブ王のクローザーの前にぼうぜんと立ち尽くした映画のような結末は永遠に語り継がれて行くことだろう。
 ジャイアンツが一丸となって挑んだ「ジャイアント・キリング」は、こうして完遂。翌日のフィラデルフィア地元紙には「不完全なエンディング(An Imperfect Ending)」と残酷な見出しが踊り、同時にフィリーズがナ・リーグに築いた“ダイナスティ”もひとまず終焉(しゅうえん)を迎えることになったのだ。

<了>

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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