ジャイアンツに砕かれたフィリーズ時代の終えん

杉浦大介

ハワード(右端)が見逃し三振に倒れてフィリーズは敗退。中央は喜ぶジャイアンツのポージー 【Getty Images】

 激闘が続いたナ・リーグ優勝決定シリーズ(NLCS)は、最後の最後で「豪腕クローザー」と「4番打者」の対決という絵に描いたようなクライマックスを迎えた。

 3勝2敗と王手をかけたジャイアンツが、1点リードして迎えた第6戦の9回裏。2死一、二塁の場面で、今季48セーブのブライアン・ウィルソンと過去5年連続30本塁打以上のライアン・ハワードが一騎打ちを繰り広げたのだ。
 普段は尋常でないほど騒がしいフィラデルフィアのファンも、悲劇と背中合わせの修羅場に半ば声を失った。まるでシナリオで導かれたような緊迫のシーンに、記者席すらも静まり返った。
 最後はカウント2−3からの7球目。低めのスライダーを見逃したハワードに三振が告げられて、見ている者の胸を締め付けるような戦いは終わった。

「低いと思った。ハリオン(主審)がコールをとまどったくらいだからね。こんな形でシーズンを終えるのは本当につらい……」
 ハワードは試合後に絞り出すようにそう語ったが、しかしあのスライダーは明らかにストライクだった。持ち味の100マイル(約161キロ)近い速球に頼らず、敵地の重圧下で最高の変化球を投げたウィルソンを誉めるべきだろう。

チャンスに沈黙したフィリーズ打線

 豪快さの権化のようなスラッガーが、最も大事な打席でフルスイングできぬまま三振。フィリーズらしからぬ結末と感じた人は多かったに違いない。だが一方で、それは今シリーズを象徴するようなシーンとも言えたのかもしれない。
 近年最高の好投手をそろえたチームの対決と言われたこのカード。投手力はほぼ同等としても、打力ではるかに上回るフィリーズが圧倒的に有利というのが前評判だった。実際に上位、下位を問わず実績ある打者で敷き詰められたフィリーズ打線が、シリーズを通じて抑え込まれるというのは考え難いことではあった。
 それがふたを開けてみれば、チェイス・アトリー、ハワード、ラウル・イバネスというフィリーズの看板打者3人は合わせて打率2割3分8厘、1打点と低迷。チーム打率も2割1分6厘と散々だった。特に得点圏に走者を置いた場面では、チーム全体で45打数8安打とまるで仕事ができなかった。

「チャンスは幾らでもあった。ただそこであと1本が出なかった」
 ジミー・ロリンズが認めた通り、第6戦でも3回(無死一、二塁)、5回(2死満塁)、6回(1死三塁)、8回(1死一、二塁)と得点機は繰り返し訪れた。シリーズを第7戦へもつれ込ませる権利は、すぐ目の前にぶら下がっていたと言っていい。しかし、勝負強さで知られたはずのフィリーズの猛者たちは、再三のチャンスにそろって沈黙を続けた。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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