ソフトバンクに繰り返された悲劇=鷹詞2010〜たかことば〜

田尻耕太郎

6度目の挑戦も初突破かなわず

 福岡ソフトバンクの“10月の悲劇”はまたも繰り返された。
 パ・リーグ覇者として臨んだクライマックスシリーズ(CS)・ファイナルステージだったが、シーズン3位の千葉ロッテの前に敗退した。04年にプレーオフの名称でこの制度が導入されて以来6度目の挑戦でも悲願の初突破はかなわなかった。
 最終決戦までもつれた。10月19日の第6戦。福岡ソフトバンクはエース杉内俊哉を中4日で先発させたが、まさかの4失点で5回途中ノックアウト。今季リーグ最高勝率(16勝7敗・勝率6割9分6厘)の左腕が14日の初戦に続いて黒星を喫した。また、リリーフで登板したファルケンボーグ。12球団最強ユニット「SBM」の中でも最強との呼び声高いが、大松尚逸に2ランを浴びるなど3失点。シーズン60試合に登板して防御率1.02で被弾は0本。その右腕がスタンドに届く打球をただ見送るしかない光景はまさに異常事態だった。

中軸勢が1割台と打撃不振

 初戦に敗れたが、その後2連勝して日本シリーズ進出に王手をかけた。そこからまさかの3連敗である。過去を振り返れば、アドバンテージの有無や“1位通過”などルールに泣かされた感が強かったが、今季の場合は1勝のアドバンテージを得て、しかも全戦が本拠地ヤフードームでの試合だった。ヤフードームに用意されたビジター応援席は1000席余り。その他3万4千人以上の観客は地元ソフトバンクに熱い声援を送り、シーズン終盤の奇跡の逆転優勝を呼んだラッキーカラーの「カチドキレッド」に身を包んで勝利を祈った。
 最大の敗因は打線の不振だった。6試合を戦って安打は1試合平均5本の計30安打。得点は合計で9点。10打席以上の打者で打率3割超をマークしたのは9番を務めた山崎勝己だけ。小久保裕紀や松中信彦、オーティズの中軸勢は1割台。シーズンで球団歴代トップとなる190安打をマークした川崎宗則は初戦に2安打したが、その後5試合はノーヒット。22打数2安打、打率は0割9分1厘だった。
 そして、痛恨だったのが本塁打ゼロである。今季チーム三冠王だった多村仁志は2戦目を終えた時点で「調子が悪いわけではない」と前を向いたが、その日打った大きなライトフライに関して「数ミリだけズレている。試合勘の影響はある」と話していた。小久保は3戦目の第4打席でレフトへ大きな打球を放った。「いった!」とばかりにゆっくりと走りだし、一塁手前ではガッツポーズもつくった。しかし、打球は高さ5.8メートルの外野フェンスに阻まれた。通算399本塁打を放っているスラッガーの感覚さえも狂ってしまうほど、何かがおかしかった。一方の千葉ロッテは長距離砲の大松が2本塁打したのをはじめ、伏兵の清田育宏にも2発が飛び出した。短期決戦の場合、チームは投手力を思う存分発揮してくる。つまり連打で得点するのは難しくなる。一発の魅力を失ったのは本当に痛かった。

さまざまな思いで見つめたロッテの胴上げ

 最終戦ゲームセットの瞬間、多村はネクストバッターズサークルからしばらく動けなかった。本多雄一と松田宣浩はタオルで顔を隠し、ひざに顔をうずめて泣いた。若い2人はシーズン1位からの敗退は初めての経験だった。本多は「すごく悔しいし、不思議な気持ちだった。これを繰り返さないために、秋季練習から強い気持ちで取り組みたい」と語った。
 千葉ロッテの胴上げが始まる。川崎はずっと前を向いていた。しかし、歓喜の輪が解けた瞬間、下を向いた。我慢していた涙が一気に溢れ、両肩は静かに震えていた。
 時間が経ち、帰路につく川崎は多くの報道陣に囲まれた。「悔しい。すべて悔しかった」と言葉を絞り出す。力を出し切れなかったのでは、という質問に対しては「自分で一番分かっている。もっともっと、練習しないといけない。今は悔しい。申し訳ない」と言い残して車に乗った。その後、個人的にメールを送ると、すぐに返事が返ってきた。「来年この悔しさをぶつけます」。コブシの絵文字がついていた。
 2010年の激闘が終わった。秋山幸二監督は「選手たちはよく頑張ったと思う」とねぎらいの言葉から会見を始めた。
「144試合という一番しんどい戦いで勝ち取ったリーグ優勝。それも本当の力。自信を持っていい。ただ、短期決戦に関して力を出せなかった。これも結果だし課題となる。この悔しさを、バネにしないとな」
 選手たちを集めたミーティングでは「悔しさというのはこの世界では絶対に必要なんだ。この気持ちを必ず来年にぶつけよう」とげきを飛ばした。
「また頑張って鍛えるか」と秋山監督。チームはしばしの休息を経て、27日から練習を再開する。パ・リーグ連覇を目指すための始動だ。そして、10月の悪夢とも来季こそ決別するために、われわれの「10・19」の悲劇を絶対に忘れてはならない。
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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