ことしはハズレ1位ドラフト!?=2010年プロ野球ドラフト会議を探る

島尻譲

例年より少ない社会人の有力候補

 社会人の有力候補は例年よりも少ないと言われているが、榎田大樹(東京ガス)と岩見優輝(大阪ガス)の両左腕が即戦力の呼び声が高い。
「東のガス屋さん(=榎田)はスライダーやカットボールといった変化球でも楽にカウントを整えられる。都市対抗でも2年続けて安定していると言うか、粘り強さを見せている。大学の先輩(福岡大)の藤原紘通(現・東北楽天)よりもプロ向きかも。チーム事情によっては先発ローテの2番手、3番手。いや、柱になる可能性も。西のガス屋さん(=岩見)は逆に荒れ球、的を絞らせないのが武器。フルカウントが当たり前の“フルハウス投手”。トルネード気味で両手を空にかざすような変則フォームも打者はタイミングが取りづらい。日本選手権出場を決めた近畿予選の三菱重工神戸戦では、こんなに丁寧な投球もできるんだという内容で完封勝利したので、どの球団も再評価でリスト上位に変更したはず」
 中長期的ビジョンでの指名となる高校生は一二三慎太(東海大相模高)、中川諒(成田高)、山田哲人(履正社高)、吉川大畿(PL学園高)らが上位候補。
「サイドスロー転向から短期間で形にして、文句なしの結果を残したこと。投球はもちろんだが、打撃も素晴らしい」というのは、夏の甲子園・準優勝投手の一二三評で、桑田真澄(巨人−米大リーグ・パイレーツ)の再来とも言われている。
 高校の先輩であり、今季のパ・リーグ本塁打王のT−岡田(オリックス)をなぞらえて、T−山田と呼ばれる山田の走攻守のハイレベルでのバランスの良さが中島裕之(西武)タイプ。また、同じく三拍子そろい、長打力も兼ね備えた吉川は高校の先輩になる松井稼頭夫(西武−米大リーグ・メッツ−米大リーグ・ロッキーズ−米大リーグ・アストロズ)タイプと、卓越した野球センスの良さを買われている。

段取り良く指名する準備を整えているかがカギ

 さて、本来のハズレという意味は……言うまでもなくアタリの対義語であり、いいニュアンスのものではない。しかし、ドラフトにおけるハズレ1位は単純に重複指名1位のハズレ(再入札・再抽選)を指すもの。従って、アタリの対義語として捉えることはナンセンスなのだ(結果的に、たまにそう捉えられてしまうような指名になってしまうことは事実ではあるが)。そういう意味で、冒頭に書いた「“ハズレ1位”ドラフトだよ」というスカウトの言葉は非常に深い。
 例年のドラフトでも指名直前まで各球団の読み合い、探り合い、時にはだまし合いもあっての駆け引きが繰り広げられる。また、今ドラフトは豊作と言われながらも、故障歴のリスク回避やドラフト直前での不調などで最終評価に微妙な変化が生じている。斎藤、大石、澤村らの重複指名が予想されるが、そこで大バクチを打っての重複覚悟の強硬指名なのか? ほかの上位候補の一本釣りなのか? 果てはサプライズの隠し球なのか?
 そして、強硬重複指名で当初のドライチを逃してしまった際に“ハズレではないハズレ1位”をシミュレーションの範囲内で、いかに段取り良く指名する準備を整えているかがカギになる。それが今ドラフトの大きなポイントでもあるとともに、これから数年のチーム編成の方向性をも左右することになるだろう。この事実を端的かつ的確に表現した「“ハズレ1位”ドラフトだよ」の一言は、だからこそ深いものなのである。

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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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