ザックのサッカーを選手はどう感じたか=2試合で見えた新指揮官のやり方とは
ザッケローニ監督のサッカーとはどういうものか? 選手のコメントで振り返る 【写真は共同】
ザック流の「完全分業制」トレーニング
指揮官が直接乗り出して指示するのは、基本的に戦術確認のみ。じっと様子を見る監督に対し、選手は当初、戦々恐々としていた。長谷部も「今までの監督みたいにいろいろ言ってきたりしないし、ちょっと不気味な感じがします」と苦笑いしていた。今回、4人目の代表監督に仕える松井大輔も「みんな雰囲気はジーコに似ているというけど、欧州の監督は戦術や規律がかなり厳しいと思う」と慎重なコメントを口にした。
松井が指摘した通り、指揮官の戦術へのこだわりは非常に強いようだ。初日にDFだけを集めてボールの位置と体の向きを1つ1つ指示したのを皮切りに、毎日のミーティングやピッチ上で細かく約束事を徹底した。「物静かだけど、すごくきちょうめんで細かい人。1つ1つのテーマを丁寧につぶしてくる」と中村憲もザック監督の緻密(ちみつ)さに驚いていた。
コンセプトは中を守る守備と縦に速い攻撃
アルゼンチン戦を見ても、センターバックの今野泰幸と栗原勇蔵はゴール前からほとんど動かなかった。相手の中央突破に対しては、内田篤人、長友佑都の両サイドがバランスを見ながら中に絞り、外のカバーリングは中盤が担った。ウイングの位置にいる岡崎慎司や香川真司が入るケースも頻繁で、「中を守る意識」は極めて鮮明だった。韓国戦では、相手の果敢なサイド攻撃によって今野と栗原が外に引き出される場面もあったが、長谷部と遠藤保仁の両ボランチがきっちりと穴を埋めていた。
加えて、ボールを奪う位置がより高くなった。「中盤から前の選手もポジショニングが重要になってくる。スタートポジションに必ず戻らないといけない」と岡崎が言うように、攻撃陣が広い範囲を献身的に走り回ることが、ザック監督の「攻めるための守備」を体現させるカギになる。新指揮官の守備戦術は非常に難易度が高いのだ。
攻撃に関しても、「縦の意識を持ってシンプルにゴールに向かう」という哲学が実に明確だった。「『日本のパス回しは世界トップレベルだけど、シュートを全然打たない』と。『勝つためには縦に行くべき。ゴールを狙うためにボールを回さないといけない』と監督が言っていました」と長友が話す通り、指揮官は意識改革を強く求めた。
前線に香川や森本貴幸らスピードのある選手を配置したこともプラスに働き、2試合ともに3〜4本の素早いつなぎからゴールに持っていく形が格段に増えた。アルゼンチン戦の岡崎の決勝点も、彼自身のインターセプトから、本田圭佑がシュートにいってDFがカット。こぼれたボールを長谷部がシュートし、GKがはじいたところに岡崎、森本が詰めた結果として生まれた。短時間に4人が得点を狙うという「ゴール前の分厚さ」は、岡田ジャパン時代にはなかったものだ。
韓国戦では、相手が引いてブロックを作っていたため、打開し切れないことも多かった。それでも、長谷部がドリブルで強引に持ち上がったり、本田圭が遠目の位置から果敢にシュートを狙うなど、攻めの迫力が出てきた。韓国のチョ・グァンレ監督も「岡田監督時代は攻撃に転じる時に余計なパスが多かったが、今はすごく攻撃が速くなった印象がある」と評していたが、その進化には選手たちも大きな手応えを感じている。「縦へ縦へという意識は確実に上がっている。守備からショートカウンターという形はこのチームの大きなポイントになるんじゃないかな」と中村憲も前向きに語っていた。