ザックのサッカーを選手はどう感じたか=2試合で見えた新指揮官のやり方とは

元川悦子

前監督の土台を生かしたチーム作り

ザッケローニ監督は、前監督の土台を生かしつつ、好スタートを切ることに成功した 【写真は共同】

 10月4〜12日の9日間という短期間で、これだけの成果が得られたのも、ザッケローニ監督が岡田武史前監督の土台を生かしたことが大きい。
「ザックさんはチームを大胆にいじったら壊れるってことが分かっていると思うし、南ア・ワールドカップ(W杯)のベースをそのまま持ってきている。その土台にザックさんの姿勢や考え方が加わっている。オシムさんの時もそうだったけど、僕らが本当に監督のやりたいことを理解するには1年くらいかかると思う。それでも、今回の短時間に少しずつ形になっているのかな。今は中を閉める守備、縦に速い攻めというテーマにトライしているんで、そこをしっかり理解したいですね」と遠藤は話した。トルシエ、ジーコ、オシム、岡田と過去に4人の代表監督の指導を受けてきたベテランから見ると、ザック監督のアプローチ方法は非常に合理的に映るのだろう。

 トルシエは1998年W杯・フランス大会の主力から若手へと大胆に切り替え、戦術も独自のフラット3を導入した。トルシエの後を引き継いだジーコは2002年W杯・日韓大会のメンバーをそのまま使ったものの、確固たる戦術がなく、チームの目指すべき方向がはっきりしなかった。06年のドイツ大会後のオシムも古巣・ジェフ千葉の選手を中核に据え、守備も相手に合わせて変える流動的なやり方にするなど独自色にこだわった。そして南ア大会を率いた岡田監督も、最初はオシム流を踏襲しようとしたが、最終的には前任者とは対照的な守備的なサッカーへと転換した。すべてがブツ切りになっていた過去と比較すると、ザッケローニ監督のチーム作りは確かに現実的だ。日本代表のレベルが上がったからこそ、イタリア人指揮官は過去のベースを生かせるのだろう。

 中村憲も継続性ある強化を歓迎する。
「ザックさんは攻守両面で今までのベースを整備してくれている。守備だったら始め方、相手がボールを保持している時のラインの高さなんかがそうだし、攻撃も『前に』っていうキーワードがある。それは僕も好意的に受け取っていますし、みんなもザックさんのやり方に真摯(しんし)に取り組んでいる。チームがいい方向に進むという期待はありますね」

さらにレベルを上げるために

 そんな中、2試合を通じて課題も出てきた。その1つが攻撃面で速いテンポになりすぎること。香川も「攻撃意識はより高く持たないといけないけど、縦へ行くとき、横へ行くときの緩急をつけないといけない。縦へ行けないとき、どうつないで工夫していくかも大事だと思う」と問題点を指摘。遠藤も「行くとき、行かないときの緩急をつけて、すべてがハイペースにならないようにやっていければいい」と今後のテーマを口にした。

 フィニッシュの精度も永遠の難題だ。「最後の点のところは個人の問題。韓国戦で僕自身も本田(圭)からパスを受けたシーンで、シュートを二アに置きにいったら浮いてしまった。崩せても点が取れないのは自分自身、そしてチームの問題でもあると思います」と長谷部は気を引き締めた。フィニッシュの精度を上げていくことが、今後のザックジャパン躍進の絶対条件になるだろう。

 守備面でも改善点はある。今野は「アルゼンチン戦は中へ中へという相手のやり方がはまったし、韓国戦も無失点で抑えられたけど、相手も研究していろんな攻め方をしてくると思う。チームとしてどのタイミングでカバーに入るのか、中央を固められない時はどうするかなど細かいところを詰めないと。どんな相手に対してもいい内容で勝てるようにしないといけない」と強調していた。

「ネガティブな部分はあまりない」と中村憲も堂々と語るように、初陣としては申し分ないスタートを切ったザックジャパン。しかしながら、バラ色の未来が約束されているわけではない。ザック監督自身も「2014年のブラジルW杯を目指してゆっくりやっていく」と気長に構えることを宣言した。実際、代表強化に割ける時間は多くないし、来年1月のアジアカップ(カタール)に欧州組を何人呼べるかも未知数だ。この現状を踏まえると、チーム作りは長期戦を覚悟せざるを得ないだろう。
 先行きはまだまだ不透明ではあるが、選手たちにとってこの9日間は「ザックジャパンのコンセプト理解」という意味で、非常に貴重な時間だった。ここで得た約束事の1つ1つを胸に刻み込み、次なる飛躍へとつなげていってもらいたい。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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